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日蓮大聖人・池田大作

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百年の後に知己を待つ 勝海舟『氷川清話』『海舟座談』

「若き日の読書」「続・若き日の読書」(池田大作全集第23巻)

前後
10  じつは『氷川清話』については、もう一つの後日譚がある。
 それは一九六八年のこと──いわゆる「七〇年安保」を目前にひかえて、わが国は左右激突の騒然たる様相を呈し始めていた。大規模な学生運動の嵐が、各大学のキャンパスに巻きおこり、ベトナムの戦火も収まらず、日本は安保防衛問題をめぐって、袋小路におちいっていた時期である。
 私は、そのような時代状況を横目に見ながら、ふと勝海舟が構想していた外交方針を想いおこした。ちょうど、その年は「明治百年」にもあたり、その記念出版として『氷川清話』が『勝海舟自伝』と題して復刻されてもいた。
 あらためて読みなおしてみると、海舟は日清戦争に反対し、時の伊藤博文内閣に対して、強く和平の議を建言している。彼は、東洋の民族が相食む戦争を否定し、中国、朝鮮の民衆と善隣友好の関係を保つべきであると主張したのである。
 私は、その卓抜なる先見の明に学び、わが学生部の第十一回総会の二万名参加の席上、未来を託すべき青年諸君の英智に向けて、中国問題に関する発想の転換を呼びかけた。おそらく中国にも、日本の明治時代に隠れたる具眼の士がいたことを、知る人もあったにちがいない。はたして、私の提唱に対して、海の向こうから確かな手応えがあったのも、今にして思えば不思議なめぐりあわせである。

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