Nichiren・Ikeda
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第13巻 「金の橋」
金の橋
小説「新・人間革命」
前後
55 金の橋(55)
周総理が、訪中した伸一に会うと言い出した時、病院の医師団は、全員が反対した。
「どうしても会見するとおっしゃるなら、命の保証はできません!」
「いや、私は、どんなことがあっても会わねばならない!」
困惑した医師団は、総理の妻の鄧穎超(ドン・インチャオ)に、説得を頼んだ。
夫人は答えた。「恩来同志が、そこまで言うのなら、会見を許可してあげてください」
伸一を乗せた車が着いたところは、周総理が入院中の三〇五病院であった。時刻は既に午後十時(現地時間)近かった。
玄関には、人民服に病躯を包んだ総理が立っていた。その全身から発する壮絶な気迫を、伸一は感じた。待ちに待った対面であった。会見には、伸一の妻の峯子も同席した。
周総理七十六歳。伸一四十六歳――。
二人は、固い固い握手を交わした。その瞬間、伸一は、互いの魂と魂が通い合い、熱く脈動し合うのを覚えた。
瞬きもせずに、彼を見つめる総理の目は、鋭くもあり、また、限りなく優しくもあった。
「二十世紀の最後の二十五年間は、世界にとって最も大事な時期です」
「中日平和友好条約の早期締結を希望します」
総理の発する一言一言が、遺言のように、伸一の生命を射貫いた。
彼は、総理の言葉に、″日中の友好の永遠の道を!″との魂の叫びを聞いた。平和のバトンが託されたと思った。
「桜の咲くころに、再び日本へ」との伸一の申し出に、総理は、寂しそうに微笑み、静かに首を振った。
「願望はありますが、実現は無理でしょう」
胸が痛んだ。これが、世々代々にわたる、日中の民衆交流の新しき歴史を開く、一期一会の出会いとなったのである。伸一は、深く、深く、心に誓った。
″私は、わが生涯をかけて、堅固にして永遠なる日中友好の金の橋を、断じて架ける!″
師走の北京の深夜は、底冷えがしていた。しかし、彼の胸には、闘魂が赤々と、音を立てて燃え盛っていた。