Nichiren・Ikeda
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54 新緑(54)
唱題が終わると、ちょうど一行の出発の時刻であった。
ロビーに下りた山本伸一は、さらに、小野寺誠三を励ました。
「オランダはいいところだね。花と風車と運河――まるでお伽の国のようだ。この国で、力の限り、君の人生の名画を描いていくんだよ。
信心を貫き通していくならば、必ず、わが人生劇場の大勝利者、大英雄になれる。
勝とうよ。断じて勝とうじゃないか。
君の勝利の報告を、私は待っているからね。
また、お会いしよう。今度は、勝ち誇った、凛々しい姿の君と」
伸一は、こう言って、別れを告げた。
この二日間にわたる伸一の激励が、小野寺の人生を変えた。
彼は、オランダ広布に生涯をかけようとの決意を固め、住まいもロッテルダムから、活動に便利な首都のアムステルダムに移し、そこで仕事を探した。
最初は、観光客の通訳兼ガイドからのスタートであった。
だが、航空会社の社員や、運輸会社の旅客部門の責任者を経て、やがて彼は、自らホテルを経営することになる。伸一に励まされてから、二十一年後のことである。
まさに、見事な勝利の実証であった。
また、小野寺は、活動の面でも、オランダの理事長として、奮闘を重ねていったのである。
広宣流布に生き抜くなかにこそ、人生の凱歌は轟くのだ。
二十八日の午後一時四十分、伸一たちが乗った飛行機は、アムステルダムの空港を離陸した。
眼下には、中世を思わせる古い建物が連なり、幾重にも走る運河が、街を仕切っていた。
運河に沿って茂る、新緑がまばゆかった。
新緑は希望である。青年の色である。
伸一には、それは、広宣流布の使命に目覚め、各地に躍り出た、若き地涌の勇者を、象徴しているように思えた。
青年が立てば、新しき朝が来る。青年さえ育てば、すべては開かれる。
伸一は、青年たちの未来に思いをめぐらすと、心に希望の太陽が昇り、生命は躍動していった。彼は、長旅の疲れが吹き飛んでいくのを感じた。