Nichiren・Ikeda
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53 新緑(53)
アイコ・シモンは、翌二十八日の午前中、小野寺誠三と一緒に、山本伸一に会いに来た。
伸一は、この日の午後の便で、帰国の途に就くことになっていたが、二人を部屋に招き、出発間際まで激励を重ねた。
「シモンさん、わざわざおいでいただいて、ありがとう。
オランダ支部の結成にともない、あなたには支部の婦人部長をお願いしたいと思いますが、よろしいでしょうか」
「私のような者でもよろしければ、やらせていただきます」
「それは、よかった。今日は、ご主人は?」
「子どもをみてもらっております」
「そうですか。お会いできなくて残念です。
実は、ご主人には地区部長をやっていただこうと思うんです」
「わかりました。大丈夫だと思います」
「ご主人に『どうか、よろしくお願いします』とお伝えください」
その時、小野寺が、決意を込めて語り始めた。
「先生。オランダはメンバーを増やして、大発展させてまいります!」
アイコ・シモンも、大きく頷いた。
伸一は、微笑を浮かべながら言った。
「すぐに組織を大きくしようと考えるのではなく、まず、しっかりと核を固めていくことが大事です。
少ないメンバーであっても、強い友情に結ばれ、信心の歓喜にあふれた組織ができあがれば、そこから、広宣流布の波は広がっていきます。
また、未来の大発展のためには、それぞれが広布の一つ一つの課題に、全力で挑戦し、勝ち抜いていくことです。小さな勝利が集まってこそ、大勝利があるんです。
さらに、広布の戦いは持続です。苦労に苦労を重ねて、あと一歩というところまで来ても、気が緩み、手を抜けば、そこから崩れてしまう。
大聖人は『始より終りまで弥信心をいたすべし・さなくして後悔やあらんずらん』と仰せです。
だから、決して油断したり、あきらめたりするのではなく、闘魂を、情熱を、いや増して燃え上がらせ、最後の最後まで、一つ、また一つと、着実に勝利の旗を打ち立てていくことです」
それから伸一は、一緒に勤行・唱題した。
54 新緑(54)
唱題が終わると、ちょうど一行の出発の時刻であった。
ロビーに下りた山本伸一は、さらに、小野寺誠三を励ました。
「オランダはいいところだね。花と風車と運河――まるでお伽の国のようだ。この国で、力の限り、君の人生の名画を描いていくんだよ。
信心を貫き通していくならば、必ず、わが人生劇場の大勝利者、大英雄になれる。
勝とうよ。断じて勝とうじゃないか。
君の勝利の報告を、私は待っているからね。
また、お会いしよう。今度は、勝ち誇った、凛々しい姿の君と」
伸一は、こう言って、別れを告げた。
この二日間にわたる伸一の激励が、小野寺の人生を変えた。
彼は、オランダ広布に生涯をかけようとの決意を固め、住まいもロッテルダムから、活動に便利な首都のアムステルダムに移し、そこで仕事を探した。
最初は、観光客の通訳兼ガイドからのスタートであった。
だが、航空会社の社員や、運輸会社の旅客部門の責任者を経て、やがて彼は、自らホテルを経営することになる。伸一に励まされてから、二十一年後のことである。
まさに、見事な勝利の実証であった。
また、小野寺は、活動の面でも、オランダの理事長として、奮闘を重ねていったのである。
広宣流布に生き抜くなかにこそ、人生の凱歌は轟くのだ。
二十八日の午後一時四十分、伸一たちが乗った飛行機は、アムステルダムの空港を離陸した。
眼下には、中世を思わせる古い建物が連なり、幾重にも走る運河が、街を仕切っていた。
運河に沿って茂る、新緑がまばゆかった。
新緑は希望である。青年の色である。
伸一には、それは、広宣流布の使命に目覚め、各地に躍り出た、若き地涌の勇者を、象徴しているように思えた。
青年が立てば、新しき朝が来る。青年さえ育てば、すべては開かれる。
伸一は、青年たちの未来に思いをめぐらすと、心に希望の太陽が昇り、生命は躍動していった。彼は、長旅の疲れが吹き飛んでいくのを感じた。