Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第7巻 「早春」 早春

小説「新・人間革命」

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48  早春(48)
 朱千尋(チュー・チェンシュン)は、空港に来ているすべてのメンバーを、山本会長に激励してもらいたかった。
 彼は再び係官に、山本伸一を、皆が入れる空港のロビーまで出してほしいと、必死に懇願した。
 人の良さそうな係官も、いささか困惑した様子であったが、空港に大勢の人が詰めかけて、伸一と会いたがっていることを知ると、許可してくれた。
 伸一がロビーに姿を見せると、歓声があがった。
 「皆さん、わざわざありがとう!」
 彼は、一人ひとりに、じっと視線を注ぎながら、力強い口調で語り始めた。
 「今、台湾は、信心をするうえで、何かと大変なことが多いと思います。
 しかし、冬は必ず春となります。台湾にも、御本尊を持った、たくさんのメンバーが誕生したこと自体が、既に春の到来を告げているといえます。
 しかし、春はまだ浅い。早春です。風も冷たい。日本ならば、霜が降り、雪が降ることもあります。
 だが、花が香り、鳥が歌い、平和のそよ風が吹く、本格的な春はきっと来る。
 時代は変わります。また皆さんの祈りで変えていくんです。そして、春たけなわの日が来るまで、忍耐強く、生命の大地に深く信心の根を張り巡らせていってください。
 皆さんの大健闘を祈ります。皆さんのご健康と、ご一家のご多幸を祈っております」
 それから伸一は、皆と記念のカメラに納まった。写真撮影の間も、彼は「生涯、御本尊を離さないことです」「絶対に負けてはいけません」と、一人ひとりに声をかけ続けた。
 彼は、何があろうが、一人たりとも、退転などさせまいと、必死になって、台湾の友を励ました。
 やがて、出発の時刻となった。
 「今度は日本でお会いしましょう。お元気で!」
 彼は、搭乗機に向かったが、途中、何度も、何度も振り返っては手を振った。
 愛する台湾の同志に見送られ、伸一の乗ったジェット機は、轟音を響かせ、雲のなかに消えていった。
 アジアの春は浅く、暗雲が低く垂れこめていることを、伸一はひしひしと感じていた。
 しかし、雲を突き抜ければ、空には、春の太陽が燦々と輝いている。
 ″友よ、飛び立て! 雄々しく、使命の空高く″
 伸一は心で、こう祈り念じながら、一路、東京に向かった。
 (この章終わり)

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