Nichiren・Ikeda
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有吉佐和子さん
朗らかなぺンの戦士
随筆 世界交友録Ⅲ(池田大作全集第124巻)
前後
11 私は生きる! 燃え尽き灰になるまで
有吉さんは、時代へのアンテナを高く張りめぐらしていた。
「これからは漫画の時代になるかもしれません」と言って、二十冊ほどの漫画を私に贈ってくださったことがある。
その中に劇画『あしたのジョー(高森朝雄作、ちばてつや画、講談社)があった。不良少年ジョーがボクシングに目覚め、生きる手ごたえを戦いとっていく物語である。
「プスプスとくすぶりながら不完全燃焼しているんじゃない ほんのしゅんかんにせよまぶしいほどまっかに燃えあがるんだ そしてあとにはまっ白な灰だけがのころ……」(第16巻)
そんな生き方を、有吉さんもしたいという意味だったと思う。
昭和五十九年(一九八四年)夏、突然、有吉さんの計報が全国を駆けた。急性心不全。五十三歳という若さだった。
前の晩までお元気で、「おやすみ」と言って、寝床に入り、そのまま起き上がらなかった。朝、数秒だけの発作で、苦しみもなく、安らかなお顔だったという。
有吉さんのことを、だれよりもよく知るお母さまが、こう言われたと聞いた。
「あの娘は……燃え尽きたのです」
残ったものは、しかし、灰ではなかった。
真っ白な花のような香り高い名作の数々と、真っ白な光のような鮮烈な生の軌跡であった。