Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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ベルビツカヤ総長 「英雄都市」の不屈の学府サンクトペテルプルク大学

随筆 世界交友録Ⅲ(池田大作全集第124巻)

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7  「魂の再生」ができれば勝てる
 ソ連崩填後のカオスのなか、資金繰りにしても、並大抵の苦労ではない。
 大学には四百もの建物があり、その維持費だけでも大変である。
 経済は破綻し、授業料を払える学生のほうが少ない。巷には、これからの冬を、どうやって越せばいいのか」と、うめいている多くの民衆がいるのだ。
 外国への頭脳流出の問題もある。
 「金もうけできる人間が偉いのだ」という拝金主義も、はびこっている。
 社会が、文化と教育に「かまっていられない」風潮もある。
 しかし、今、「史上最大の困難のとき」だからこそ、「教育の再生」が必要なのである。そこから「魂の再生」が生まれるからだ。「魂の再生」さえあれば、どんな困難も乗り越えられるからだ。
 私は、そう信ずる。
 日本の再生も「教育立国」の道しかない。
 サンクトペテルブルク大学では、あの「死の包囲」の中でも、防空壕や地下室に入って研究を続けたという。
 二千人以上の学生が集まって講義を受けた日もある。
 「敵は、われわれを『まいった』と言わせたいんだ。だから、『断じて、屈しない』証拠を見せてやろうじゃないか!」
 そんな心意気であったろうか。
 攻防戦のなか、多くの博士号が取得された。新しい学科さえつくられた。戦闘の最前線に向かった学生も多かった。看護に献身した女子学生も。
 まさに「英雄都市」の「不屈の学府」である。
 その魂は、ベルビツカヤ総長の中に生きている。
 車の中でも仕事をするほどの多忙のなかで、「まだまだ、やりたいことが、私にはいっぱいあるのです!」と。
 たとえば総長は、駆けずりまわって資金を集め、卒業生に、靴、洋服その他を用意できるよう臨時金を支給した。
 孤児や、親の援助がない学生のためには、食費の援助を増額した。
 少女のころ、あの施設で、「この子たちが私を頼ってきたら――」と誓った心は生きていたのである。
 それこそが、ベルビツカヤさんの人生の勝利であった。
 地位ではなく、人に尽くすという「誓い」を果たしたことこそが――。
8  四十六年ぶりに「父の墓」へと
 一九九六年、長く不明だったお父さんの埋葬地がわかった。あるジャーナリストの調査のおかげだった
 モスクワのドンスコイ墓地に、総長は詣でた。死後、四十六年がたつていた。
 幼かった自分が、もう、とうにお父さんの年齢を超えてしまった。あれほど夫の帰りを待ち続けていたお母さんも亡くなっていた。
 総長は、身をかがめて、墓地の土を少しだけ取った。袋に入れた。
 その袋を抱きしめて、お母さんのお墓へと運んでいった。墓の土に、袋の土を混ぜた。
 ゆっくりと、ていねいに混ぜた。
 「やっと、やっと、お父さんに会えましたね。あ母さん!……」
9  ぎしぎしと骨がきしむような苦しみに耐えてきた”二十世紀のロシア”の人々。
 ”二十世紀のロシア”は、その分、きっと明るいにちがいない。
 「ロシアには『人間』がいる! だから、ロシアには未来がある!」(Н.А. Некрасов, Собрание сочинений, Т.1, Художественная литература)
 そう叫んだ詩人ネクラーソフも「サンクトぺク大学」で学んだ人であった。

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