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日蓮大聖人・池田大作

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5 エイズと人権  

「健康と人生」ルネ・シマー/ギー・ブルジョ(池田大作全集第107巻)

前後
4  5  6 クローン技術と生命観
6  「クローン人間」の技術的な可能性
 池田 さて、ここで、「クローン」の問題に入りたいと思います。
 シマー 「クローン」は将来、生命科学の重要な課題となるでしょう。
 池田 そこで、まずシマー博士におうかがいしたいのですが、「クローン」とはどういう意味でしょうか。
 シマー 「クローン」とは「挿し木」という意味で、同じ遺伝子をもつ個体の仲間をさす言葉です。このクローンをたくさんつくる、いわゆる「クローン技術」は、畜産・水産の分野、また植物・果物栽培の分野などでは、その有用性がよく知られているところです。
 池田 その技術が人間に応用されようとしているわけですが、人間への応用を含めて、クローン技術は、どこまで進んでいるのでしょうか。
 一九九七年二月、イギリスのウィルムット博士らが、成長した羊から取り出した細胞を使って、「クローン羊」を世界で初めてつくることに成功していたことが発表され、大きな話題となりました。
 シマー ウィルムット博士が発表した実験結果を見ますと、博士がとった手法で得られた胚が正常に成長する可能性は、きわめて少ないのです。「ドリー」と名づけられたクローン羊は成長しましたが、この雌羊が何歳まで生きられるか、現在のところ明らかではありません。
 ドリーは、最近出産したようですから、生殖能力があることはわかりましたが、その仔羊が正常に育つかどうかはこれからの問題です。
 しかし、純粋に科学的見地から言えば、やはりたいへんな事件です。この実験を行ったチームは、技術的には「クローン人間」をつくることができると言っています。
 池田 しかし、「クローン人間」が技術的に可能であるとしても、その必要性はあるのでしょうか。
 シマー 以前には、臓器移植で拒否反応が起きないように、自分の「クローン人間」をつくっておいて、ちょうどスペアタイヤのように、そこから新しい臓器を取ってきて、移植すればいいと言う主張もありました。
 池田 人間を手段視する恐ろしい考え方ですね。
 シマー そうです。これではまるで、ハクスリーの書いた『すばらしい新世界』になってしまいます。
 ハクスリーは、その書名とは反対に、この本のなかで、「クローン人間」を国家プロジェクトとして大量生産し、社会に一糸乱れぬ秩序をもつ「人間疎外」の地獄を描いたのです。
 池田 「自由」も「人権」もない悪夢の世界が想像されます。
7  人間は手段化を許されない存在
 シマー アメリカでもカナダでも、人間のクローンは禁止されています。
 ブルジョ 私も「クローン人間」に反対したクリントン大統領やユネスコの宣言に、大筋において賛同します。
 池田 ユネスコで採択された「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」(一九九七年十一月十一日)の「第十一条」では「ヒトのクローン個体作製のような人間の尊厳に反する行為は、許されてはならない」と禁止していますね。
 ブルジョ ユネスコの宣言は、科学者、法律家、政策担当者などの多くの人々が論じあった総意として発表されたことに、意義があります。
 池田 私も、仏法者として「人間の尊厳」を踏みにじる行為である「クローン人間」には反対です。
 仏法において「人間の尊厳」は、次の二つの観点から基礎づけられております。
 第一には、「縁起」の思想です。人間は他の人々と、相互に依存しあい、助けあいながら、生きていく存在です。したがって、他者を犠牲にして、自分の欲望を満たしてはならないのです。この観点からも、「クローン人間」の根底にある、自分のために人間を手段化する発想そのものに反対です。
 ブルジョ 私も会長の意見に深く同意します。西欧の伝統的倫理では、カントの定言命法のように、行っていい行為とは、どこでも、だれにでも、自分にも行っていいものに限られるのです。
 また、ユダヤ・キリスト教の伝統のなかに「自分がなされたくないものを、他の人に行ってはならない」という律法もあります。
 池田 みずからを顧みることによって他者を慈愛する発想は、仏法の黄金律でもありました。「己の欲せざるところを、人に施すことなかれ」(『論語』)とは、仏法を含めて東洋の普遍的倫理です。
 ブルジョ ひとたびどこかで人間の手段化が行われれば、あらゆるところで、すべての人間を手段化する危険性が生じてきます。
 池田 第二に仏法では、人間は、それ自身として尊厳であり、手段化を許さない存在であるととらえます。
 仏法では、すべての人間は「仏性」を内在するゆえに「尊厳」であると主張するのです。この「仏性」という無限の可能性は、その内発する自律性によって、多様な姿を現します。これを「自体顕照」と表現しております。
 「クローン人間」は、この人間の自律性と多様性を否定するゆえに、「人間の尊厳」に反するのです。
 ブルジョ その点でも、会長に賛成です。生物学的に言えば、人間は、生殖によって遺伝子が多様に組み合わされて、一人一人が、ユニークな存在となるのです。
 しかし、為政者や大国が、クローニング(クローン個体作製)を用いて、「望ましい人間像」を国民や他国に押しつけることもできます。「クローン人間」は多様な人間性に反します。
 もう一点、「クローン人間」に反対する理由をあげていいでしょうか。
 池田 どうぞ、続けてください。

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