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日蓮大聖人・池田大作

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我が青春のゲーテ(上) 勝つのだ!

2007.7.13 随筆 人間世紀の光4(池田大作全集第138巻)

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7  「友よ、たとえ雲に包まれていても、勇気をもって楽しく働こうではないか。われわれは偉大な未来のために働いているのだから」(『人間性形成のための歴史哲学異説』小栗浩・七字慶紀訳、『世界の名著』38所収、中央口論社)
 これは、青年ゲーテが師と仰いだ、文学界の指導者ヘルダーの厳しき叫びである。
 この師の教えの如く、ゲーテは、偉大な末来のため、生き生きと社会へ関わり、勇敢なる行動を続けていった。
 一七七六年には、ワイマール公国の君主の招請に応え、ゲーテは政治の世界に身を投じた。若き大臣として重責を一身に担い、疲弊した国を忍耐強く変えていったのだ。
 ゲーテは、庶民とともに苦楽を分かち、庶民の中に飛び込んで、庶民のための政治を行った。
 洪水などの災害があれば、真っ先に現場へ急行して、自ら人命の救助を陣頭指揮するのが、ゲーテであった。
 「政治の力は行為することであって、演説することではない」(『ゲーテ格言集』大山定一訳、『ゲーテ全集』11所収、人文書院)とは、彼の信念である。
 「まじめなことがらで真剣になるのはあたりまえのことです」「善と正義がこの世に行われることを望む人なら、なおさらのことです」(アルベルト・ビルショフスキ『ゲーテ──その生涯と作品』高橋義孝・砂糖正樹訳、岩波書店)
 政治には、責任がある。
 傍観したり、あるいは批判だけしているのであれば、気楽であろう。自分は何も傷つかない。
 彼は毅然と言った。
 「あらゆる反対派は、ただ否定するだけである」(前掲『ゲーテ格言集』)と。
 ゲーテは、国家や国民のことを少しも考えていない党派など、頼りにしなかった。
 「利己主義と嫉みとは、悪霊のようにいつまでも人々をもてあそぶだろうし、党派の争いも、はてしなくつづくだろう」(エッカーマン『ゲーテとの対話』上、山下肇訳、岩波文庫)と達観していたからだ。
 「正義」を見失った権力が、どれほど腐敗するか。そして、「民衆」を忘れ去った政治が、どれほど残酷になるかを、ゲーテは鋭く見据えていた。
 激しい公務の連続であろうと、一人の悩める青年のためにも具体的に手を打ち、自ら奔走する。これが、ゲーテであった。そして、現実に国を立て直していったのだ。その実績に多くの感謝と敬意が寄せられたことは、いうまでもない。
 たゆみなき実行の人生であった。八十歳を超えて、彼は『ファウスト』に綴った。
 「この地球にはまだ、偉大な仕事をなすべき余地がある。驚歎すべきことが成されなければならぬ」(第2部、相良守峯訳、岩波文庫)──

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