Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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革命に殉じ生涯戦う カストロ キューバ国家評議会議長

随筆 世界交友録Ⅰ Ⅱ(前半)(池田大作全集第122巻)

前後
6  革命家は人間を信じている
 カストロ議長が言われた。少し、しわがれた、力強く、それでいて静かに語りかけるような声であった。
 「日本は世界で唯一の被爆国です。すでに戦争が終結しつつあるときに、しかも一般市民に対して核兵器が使用された。あまりにも反人道的です。今も世界では核兵器がつくられています。大きな経済的負担を強いながら──冷戦は終わったのです。何のための核なのか、人間の英知は何のためにあるのかと私は問いたい」
 議長は、諸大国が年間一兆ドルともいわれる軍事費の一割を使えば、途上国の深刻な債務問題に立ち向かえると主張している。「武器を増やすより、民衆の生活を守るべきだ」と。
 民衆のために──その一点で、すべての指導者が心をあわせ、胸襟を開いて話しあったならば、世界は一変するであろう。
 夢物語ではない。アメリカとベトナムも国交が正常化したではないか。人間の英知を私は信じたい。
 議長の信条は、こうである。
 「反動主義者は人間を信用しない」「彼は(人間を)むち打っことによってのみ動かせると思っている」「革命家は人間を信じている。人類を信じている。もし誰か人間を信じない者がいたら、彼は革命家ではない」「私がもっとも革命に感謝し、革命のために喜んで死ぬことができるのは、私が革命によって自分が人間であることを感じとれたからに他ならない」(前掲『フィデル・カストロ』)
 世上、カストロ議長ほど悪口雑言されてきた人も少ない。その一方、カリブの風雲児として、世界の途上国に希望と刺激をあたえ続けてきたことも事実である。
 両極端の評価のなかで、議長の実像は何なのか。短い会見で決めつけるつもりはない。最終的には、歴史が審判することでもあろう。また、いくたの過ちがあったことは議長自身も認めている。
7  ただ、ここには「わが理想のためなら命も惜しくない」と定めた一人の人物がいた。
 そして革命に殉じた同志の思いを夢寐にも忘れぬ人がいた。
 独裁政権に逮捕され、拷問された同志たちは、民衆の勝利を彼に託して、死んでいった。(五三年七月のモンカダ兵営襲撃のあと)
 アメリカ軍の侵攻で傷ついた青年は、流れ出る自分の血で議長の名前を板に書き、死んでいった。(六一年四月)
 彼らの心を、どうして忘れられょうか。
 初一念を貫く、悪戦苦闘の革命家。私は、わが青春のモットーを想起した。
 「笑う者には、汝の笑うにまかせよう。謗る者には、汝の謗るにまかせよう」と。
 私は仏法者である。仏法者に、反米もなければ、反キューバもない。相手がだれであれ、「平和」の追求という基本の精神が一致するならば、人間として対話の可能性を探し、連帯への新しき道を開いていくことが正しいと信じている。
 一時間半の会見では、コスイギン首相(ソ連)、周恩来総理(中国)、ポーリング博士(米)はじめ、共通の知人についても語りあった。また、ともに愛読するホイットマン、ユゴーついても。
 そして、そのほか数々の私の苦言をも、議長は寛大に受けとめてくださり、一言われたのである。「友情に感謝します!」と。
 コロンブスが感嘆した「人間の目が、かつて見たことのないほど美しい島」キューバ。
 あわただしい滞在を終えて、数週間後に日本に帰ると、キューバへのアメリカの経済制裁強化法(ヘルムズ・バートン法)が、国際世論の怒りの前に凍結されたというニュースが飛び込んできた。
 (一九九七年八月十七日 「聖教新聞」掲載)

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