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新・黎明  

小説「人間革命」11-12巻 (池田大作全集第149巻)

前後
11  その日は、夜来の雨も上がり、雲一つない、さわやかな五月晴れであった。
 燦々と降り注ぐ陽光を浴びて、街路樹の新緑の若葉が、鮮やかに映えていた。
 一九六〇年(昭和三十五年)五月三日、山本伸一の第三代会長就任式となる春季総会が、東京・両国の日大講堂で開催された。
 正午、開会が宣せられた。学会歌の勇壮な調べが響き渡り、入場式が始まった。二百三本の男女青年部の旗、そして、学会本部旗に続いて、新会長の山本伸一が場内に姿を現した。
 会場を埋め尽くした同志の視線が、一斉に伸一に注がれた。彼は、壇上の真上に掲げられた戸田城聖の遺影を仰いだ。遺影の左右には、戸田の和歌が墨痕鮮やかに記されていた。
 伸一の目は、右側に掲げられた、「いざ往かん 月氏の果まで 妙法を 拡むる旅に 心勇みて」の歌をとらえた。戸田が会長に就任した翌年の正月、世界広布への思いを託して詠んだ、懐かしい和歌である。
 彼は、思師の遺影に誓っていた。
 ″先生! 伸一は、今、先生の後を継いで、今世の一生の大法戦を開始いたしました。生死を超えて、月氏の果てまで、世界広布の旅路を征きます。ご照覧ください″
 彼には、恩師の顔が、自分に微笑みかけているように思えた。遺影を見る伸一の目が、心なしか潤んだ。彼は、込み上げる感慨を抑えて、壇上に向かって歩みを運んだ。
 伸一が壇上に着席すると、理事の関久男の、開会の辞が始まった。関が、新会長の推戴に触れると、歓呼と拍手が湧き起こり、大波のようなどよめきが広がった。
 森川一正の経過報告、小西武雄理事長の辞任のあいさつ、原山幸一の推戴の言葉のあと、いよいよ山本伸一が、会長就任のあいさつに立った。
 喜びは爆発し、拍手の嵐が講堂の大鉄傘を揺るがした。人びとは、この日、この時を待ちわびてきた。今、友の眼前には、待望し続けてきた新会長・山本伸一が立っている。
 ″さあ、広宣流布の大前進が始まる!″
 人びとは、高鳴る胸の鼓動を感じながら、伸一の言葉に耳をそばだてた。
 「若輩ではございますが、本日より、戸田門下生を代表して、化儀の広宣流布を目指し、一歩前進への指揮を執らせていただきます!」
 力強い、堂々たる声の響きであった。今、新しき広布の繋明を告げる、大師子吼が放たれた。共戦を誓う同志の拍手が歓喜の潮騒となって、堂内にこだました。幸と平和の大海原へ、怒濤の前進が開始されたのだ。
 伸一の胸には、死身弘法への決意が、熱い血潮となってほとばしり、五体にうねった。まさに「開目抄」に仰せの、「詮ずるところは天もすて給え諸難にもあえ身命を期とせん」との御金言を、深く生命に刻んだのだ。
 激闘の幕が切って落とされたのだ。
12  大歓喜のなかに総会は幕を閉じ、引き続き行われた祝賀の集いも終わろうとしていた時のことであった。
 伸一が退場しようとすると、「ワーッ」という大歓声をあげながら、青年たちが雪崩を打ったように、彼をめざして駆け寄っていった。
 皆の手が伸一を担ぎ上げ、彼の体が宙に舞った。胴上げが始まったのである。新会長の誕生を待ちに待った、青年の喜びが炸裂したのだ。
 「会長・山本先生、万歳!」
 胴上げの輪の傍らで、誰かが跳び上がるように両手を振り上げ、声を限りに叫んだ。
 「万歳! 万歳!……」
 唱和する声が、津波のように広がり、豪雨を思わせる拍手が轟き、ドームにこだました。どの顔も紅潮し、感涙に頬を濡らしていた。
 伸一の体は、高窓から差し込む光を浴びて、若人の腕の渦潮のなかで、鯱のように勇壮に躍り跳ねた。それは、栄光と嵐の、世紀の大航海に向かう丈夫の、旅立ちの乱舞であった。
 伸一の胸中は、さわやかに晴れ渡り、一点の雲さえなかった。
 満々たる闘志をたたえた使命の太陽が、黄金の光を放ち、彼の心の大空いっぱいに、まばゆいばかりに燃え輝いていた。
  
  わが恩師戸田城聖先生に捧ぐ
              弟子池田大作

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