Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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時流  

小説「人間革命」3-4巻 (池田大作全集第145巻)

前後
13  その日の夜は、戸田の御書講義である。日本正学館の二階には、ぎっしりと人びとが詰めかけ、階段にまであふれでいた。熱気が、夏の夜の蒸し暑さに輪をかけていたが、誰一人、身じろぎもせず聞き入っている。戸田が、講義のなかにはさむ天衣無縫のユーモアが、時折、爆笑を誘い、息苦しさを救つていた。
 そして戸田は、先夜の小岩の座談会での事件が、急転直下、平穏に終わった経緯を話しながら、事件の成り行きに気をもんでいた人びとを安心させた。
 「広宣流布の長い旅路には、そりゃ、いろんなこが起きるさ。だが、結局は心配ないもんだよ。
 今回のことも、考えようによれば、いよいよ、大聖人の仏法が日本から朝鮮半島へ、また東洋へと流布していく、一つの瑞相ではないかと、私は思っているんです。既に七百年前に、大聖人様は、明確にそのことをおっしゃっている。『諌暁八幡抄』の最後のところを、誰か読んでごらん」
 一人の若い女性が立って、澄んだ声で読み始めた。
14  「月は西より東に向へり月氏の仏法の東へ流るべき相なり、日は東より出づ日本の仏法の月氏へかへるべき瑞相なり
 月の輝く天空の位置は、日に日に西から東に移っていく。それは月氏(インド)の仏法である釈尊の教えが、東の方へ流布していく姿である。太陽は東から出る。日本の日蓮大聖人の仏法が、月氏国へと西還していく瑞相である。
 「ちゃんと、今日のことを、御予言になっている。ゆえに、時来るの思いを深くするんです」
 戸田城聖は、この事件の報告を聞いた時、勝負は既についていると言ったが、事件の、このような結末から逆に考えてみると、確かに勝負は不思議にもついていたといえよう。
 戸田は、言葉をついだ。
 「今、アジアで、同じ民族が分断し、争い合うとしたら、これ以上の不幸はない。それを救うことができるのは、日蓮大聖人の仏法しかありません。一日も早く、東洋に、仏法を伝えねばならない」
 彼は、憂いを吹き払うように語った。

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