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日蓮大聖人・池田大作

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生命の庭  

小説「人間革命」3-4巻 (池田大作全集第145巻)

前後
20  『大白蓮華』創刊号が、人びとの手に渡ったのは、六月であった。見慣れた、謄写版刷りの「価値創造」が意外な衣替えをしたので、驚いたり、喜んだりしたものである。
 しかし、誰よりも喜んだのは、まず、戸田自身であった。
 ――会員が機関誌を愛し、熟読する限りは、新たな組織の伸長が見られるであろう。その反対に、編集内容が惰性に流され、人びとが心から親しむこともなく、機関誌を大事にしなくなった時には、おのずから学会の発展も止まってしまう。
 彼は、長年の経験から、そのことを肝に銘じていたのである。
 人びとは、新雑誌の表紙を開け、戸田城聖の「生命論」を、まず読んでいった。しかし、ある人は法華経講義の、あの話だなと、軽く読み飛ばした。ある人は、かねて折伏している友人に、この「生命論」を読ませてやろうと勇み立った。またある人は、不思議な感銘をもてあまし、自分の教学力の薄弱さを恥じた。
 人びとの印象は、さまざまであった。だが、この無類の哲学論文が、二十一世紀の「生命の世紀」のために、純粋な真理を語っていることに、気づく人はいなかった。
 山本伸一は、戸田の出版社で編集の仕事を始めて、既に半年が過ぎていた。
 彼は、この創刊号を持ち帰って、夜遅く「生命論」を熟読し始めたのである。鮮烈な感動が、いきなり彼を襲ってきた。彼は、しばらく茫然としてしまった。だが、体の疲労に気づき、寝床を敷いて横になった。
 暗い部屋である。彼の頭は、なお熱かった。覚めやらぬ興奮は、彼の睡眠を、いつまでも奪ってしまった。彼は、やがて布団からはい出すと、スタンドのスイッチを入れた。そして、机にノートを広げたのである。
 彼は、この夜の感動を、彼なりの表現に託そうと、思いをめぐらしていった。詩の語句が、切れ切れに浮かび始めた。そして鉛筆は、紙の上を動き始めたのである。
21  若人に期す
  
 おお、暁の天を衝き
 無数の光彩ひかりを放ち
 燦々と太陽は昇る
 ああ その刹那の感動!
 驚嘆の生命のおののき
 それは若人の心の跳躍だ
  
 若人よ
 いま 二十世紀の原子力時代にあって
 心の哲学でなにを救えるのか 否!
 陰謀と暴力と物の哲学で
 人類が幸福になれると
 誰が信ずるのか 否! 否!
  
 生命の本質を明証し
 宇宙の本源をあかした――
 日蓮大聖人の大哲学にこそ
 若人よ わたしは身を投じよう
 智あるものは知れ
 人類を慈愛する者は動け
 悠久の平和――広宣流布
  
 若人よ 眼を開け
 若人こそ大哲学を受持して
 進む情熱と力があるのだ
 彼は、ノートを閉じて、寝床にもぐり込んだ。しばらくして、安らかな寝息をたて始めた。この夜の詩は、『大白蓮華』第二号の片隅に掲載された。

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