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日蓮大聖人・池田大作

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小説「人間革命」3-4巻 (池田大作全集第145巻)

前後
15  国民の生活は、日々に窮迫していった。余裕など、全くなかった。食べるのに精いっぱいの時代が続いていたのである。
 年末の日々は慌ただしく、寒々と過ぎていった。インフレの高進は厳しく、各家庭の経済生活はトコトンまで破壊され、その限度に達していた。一部の闇成金を除いて、″たけのこ生活″も底をついたのである。社会は騒然として、爆発寸前の状態であった。だが、それらの不満は、占領軍の重圧のもとにあって、くすぶっていたのである。国民は、なお耐え忍ばねばならなかった。
 大晦日、戸田城聖は、白金の自宅で、妻の幾枝を傍らに、既に中学生になった喬一をからかいながら盃を傾けていた。
 なかなかのご機嫌であった。北海道から送ってきた、大好物の身欠きニシンをかんでいた。
 「喬一君、今年は、お前の勉強部屋を、座談会にちょいちょい使わせてもらったが、来年もひとつ頼むよ」
 喬一は眠い顔をしている。ラジオで除夜の鐘を聞こうと頑張っていたのである。まぶたは重く、不機嫌そうであった。
 「お父さん、試験の時は、お断りだよ」
 「その時は、応接間を使っておくれ」
 「応接間? いやだなあ。あの部屋は、玄関の人の出入りで、うるさくて勉強できやしないよ、お父さん」
 「喬一、お前、いつからそんなに勉強家になったんだね」
 戸田は、目を細めて笑いながら、身欠きニシンの身をむしり取って、喬一に与えた。
 「ぼく、ニシンって、あんまり好きじゃない」
 喬一は、そのニシンを戸田の皿に戻してしまった。
 「こんなうまいものの味がわからんか。喬一、お前、まだニシンの勉強が足らんな」
 戦い切ったこの一年を振り返って、戸田には、なんの悔いもなかった。そして、束の間の団欒の安らぎのなかで、彼は酒に酔いたかった。
16  同じ時刻に、森ケ崎の海岸近い家で、山本伸一は日記帳を開いていた。
 年が明けると、戸田の膝下で働く毎日が来る。彼は、異様なおののきを覚えながら、書き始めた。
  昭和二十三年――。
  吾れ二十歳、今、正に過ぎゆかんとす。
  苦悩の一年。敢闘の一年。
  求道の一年。曙光への第一歩の一年なり。
  祖国日本の荒浪よ。世界の大動乱よ。
  師と共に大白法を持し、勇敢にいどむのみ。
  
  永劫の平和のため、
  大聖人の至上命令により、
  宗教革命に、この生命を捧げるのみ。
  
  蛍の光、窓の雪……。
  過去のすべてよ、さらば。
  新たなる、妙法広布の鐘がなる。

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