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日蓮大聖人・池田大作

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小説「人間革命」3-4巻 (池田大作全集第145巻)

前後
14  東条をはじめ、七人が処刑された一九四八年(昭和二十三年)十二月二十三日――この日、第二次吉田内閣に対する、内閣不信任案が可決されている。そして、衆議院は解散となった。例の″なれあい解散″といわれた、おかしな解散である。
 この年の三月十日、民主・社会・国民協同(国協)の三党により、芦田連立内閣が発足した。いわゆる、外資導入内閣といわれた弱体内閣であり、加えて昭電疑獄で、閣僚が相次いで逮捕された。彼らは、小菅拘置所に勾留され、総辞職に追い込まれた。しかも、芦田総理自身も、辞職後、収監されるに及んで、「小菅内閣」という汚名を浴びた内閣となった。
 これにより、政権は民自党に移り、十月十五日に第二次吉田内閣が成立したのだが、衆議院に百五十一の議席しかない、少数単独内閣であった。
 吉田は、議会で多数派を取り、安定政権を確立するため、衆議院の解散・総選挙の時期を、早くつかもうと焦った。しかし、野党の民主・社会・国協の三党は、汚職への強い批判が、国民のなかに燃え上がっているのを恐れ、解散の引き延ばしに懸命であった。
 この時、GHQが斡旋に乗り出し、十二月二十日、野党三党が内閣不信任案を提出して、国会はようやく解散となったのである。
 投票日は、翌四九年(同二十四年)の一月二十三日であった。果たせるかな、国民の批判は厳しく、野党三党は惨敗したのである。よって民自党は、いきなり過半数を占め、共産党も三十五人に躍進し、政局は逆転したのであった。
 また中国大陸では、四八年(同二十三年)十二月十五日、共産党軍が北京(ペイチン)へ入城し、長江(チャンチアン)南岸へと国民党軍を圧迫し始めていた。ここでアメリカは、日本を防共政策の強力な防波堤として仕上げることを決意した。十二月十八日、アメリカ政府は、経済安定九原則の実施を、占領軍に指令してきた。
 後に、この九原則は、「ドッジ・ライン」と通称されたが、日本経済に、大々的な外科手術を強行することになったのである。ここで、さしものインフレも、デフレに変わっていったが、国民の払った犠牲も、また大きかった。
 東京裁判による処刑が行われた翌日の十二月二十四日、GHQは、突如として、まだ裁判に入っていなかったA級戦犯容疑者を不起訴と決定し、釈放した。岸信介以下十九人の容疑者は、師走の街に出された。連合国の、旧日本帝国に対する懲罰作業は、これで、ひとまず終了したわけである。
15  国民の生活は、日々に窮迫していった。余裕など、全くなかった。食べるのに精いっぱいの時代が続いていたのである。
 年末の日々は慌ただしく、寒々と過ぎていった。インフレの高進は厳しく、各家庭の経済生活はトコトンまで破壊され、その限度に達していた。一部の闇成金を除いて、″たけのこ生活″も底をついたのである。社会は騒然として、爆発寸前の状態であった。だが、それらの不満は、占領軍の重圧のもとにあって、くすぶっていたのである。国民は、なお耐え忍ばねばならなかった。
 大晦日、戸田城聖は、白金の自宅で、妻の幾枝を傍らに、既に中学生になった喬一をからかいながら盃を傾けていた。
 なかなかのご機嫌であった。北海道から送ってきた、大好物の身欠きニシンをかんでいた。
 「喬一君、今年は、お前の勉強部屋を、座談会にちょいちょい使わせてもらったが、来年もひとつ頼むよ」
 喬一は眠い顔をしている。ラジオで除夜の鐘を聞こうと頑張っていたのである。まぶたは重く、不機嫌そうであった。
 「お父さん、試験の時は、お断りだよ」
 「その時は、応接間を使っておくれ」
 「応接間? いやだなあ。あの部屋は、玄関の人の出入りで、うるさくて勉強できやしないよ、お父さん」
 「喬一、お前、いつからそんなに勉強家になったんだね」
 戸田は、目を細めて笑いながら、身欠きニシンの身をむしり取って、喬一に与えた。
 「ぼく、ニシンって、あんまり好きじゃない」
 喬一は、そのニシンを戸田の皿に戻してしまった。
 「こんなうまいものの味がわからんか。喬一、お前、まだニシンの勉強が足らんな」
 戦い切ったこの一年を振り返って、戸田には、なんの悔いもなかった。そして、束の間の団欒の安らぎのなかで、彼は酒に酔いたかった。
16  同じ時刻に、森ケ崎の海岸近い家で、山本伸一は日記帳を開いていた。
 年が明けると、戸田の膝下で働く毎日が来る。彼は、異様なおののきを覚えながら、書き始めた。
  昭和二十三年――。
  吾れ二十歳、今、正に過ぎゆかんとす。
  苦悩の一年。敢闘の一年。
  求道の一年。曙光への第一歩の一年なり。
  祖国日本の荒浪よ。世界の大動乱よ。
  師と共に大白法を持し、勇敢にいどむのみ。
  
  永劫の平和のため、
  大聖人の至上命令により、
  宗教革命に、この生命を捧げるのみ。
  
  蛍の光、窓の雪……。
  過去のすべてよ、さらば。
  新たなる、妙法広布の鐘がなる。

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