Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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「ナポレオン展」を見て 「精神の皇帝」の戦い続ける生命

1999.5.26 随筆 新・人間革命2 (池田大作全集第130巻)

前後
7  「数々の逆運に遭っても 私の魂は 大理石のように堅かった」(オクターヴ・オブリ編『ナポレオン言行録』大塚幸男訳、岩波文庫)とは、彼の有名な言葉である。
 展示作品のなかに、二度目の退位のあと、投降したイギリス艦の甲板に立つナポレオンの絵があった。
 彼は一人、屹立していた。帝冠を奪われてもなお、彼は厳然として皇帝であった。
 当時のこんなエピソードが伝えられている。
 流刑地セント・ヘレナに向かう船中のこと。乗組員に″彼を皇帝と呼ぶな、将軍で十分だ″との命令が出される。
 すると、ナポレオンは昂然と言い放ったという。
 「彼らは、私を好きなように呼ぶがいい。それでも、私が私であることまで妨げることはできまい」(長塚隆二『不可能を可能にするナポレオン語録』日本教文社)
 我は我なり! いかなる逆風があろうとも――なんと誇り高き心であろうか。
 胸に大闘争心ある限り、ナポレオンは不撓の皇帝であった。
 「戦い続ける生命」こそが、ナポレオンであった。
 彼は、生涯に、自ら六十余回もの戦闘の指揮をとったといわれる。激戦、また激戦の日々であった。
 そして、最後の流謫るたくの島においても、ナポレオンは「新たな戦い」を開始する。
 それは、未来のための「精神の闘争」であった。
8  「現在はつらい過渡期にすぎない。何が勝ち誇るべきであるか? 未来が勝ち誇るべきではないか?」(前掲『ナポレオン言行録』)
 ナポレオンにとって、「未来」とは、知性であり、産業であり、平和であった。
 その「未来」が、暴力・特権・無知という「過去」に勝ち誇る明日を、彼は見つめていた。戦争は「時代錯誤」だと見抜いてさえいたのである。
 「剣」に対する「精神」の勝利――歴史の水底の流れは、彼の志向の正しさを証明しているといってよい。
 「前進!」
 ナポレオンは、そう叫んで、世紀から世紀を駆けた。
 彼が未来の空に馳せた夢は、「平和と文化の二十一世紀」へひた走る、我らの「前進」への励ましではあるまいか。
 ――私は、心満たされた思いで美術館を後にした。

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