Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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王者の柱・中部 「戦う心」で築いた不敗の堅塁

1999.3.8 随筆 新・人間革命1 (池田大作全集第129巻)

前後
1  「勇気とは、すべての人が恐れるものを、制圧することである」(「狂えるヘルクレス」小川正廣訳、『セネカ悲劇集』1所収、京都大学学術出版会)――古代ローマの哲学者、セネカの有名な言葉である。
2  ″いちばん苦労した人が、最後は、いちばん幸福になるのが、正しき仏法の在り方である″とは、戸田先生の指導の一コマであった。
 偉大なる中部の歴史も、苦難の連続であった。
 非常に長い間、外の世界が暗闇のように見えた時代が続いた。
 冷たく激しい雨が、陰湿な生ぬるい雨が、茂みから、木立から、さらさらと落ちてくるような時代があった。
 他の明るい世界と違って、何ゆえか、中部は、これほどまでに、暗い困難な時期が続くのであろうか。
 私は、″いとしい友よ、暗い時代と決別して、早く明るい時代を!″と心から祈った。
3  ″暴風雨が去りて、明るい陽の輝きの中部に!″と願った。
 中部は、忍耐で勝った。
 辛抱で勝ってきた。
 戦闘の継続で勝ってきた。
 今は、いたるところで、地平線に漂う金色の雲が、小鳥の鳴き声が、和やかな月が光り、私の宝の胸に、私の心の富となって、勝ち誇って安心している。
4  私が会長に就任して十周年のころであった(一九七〇年=昭和四十五年)。
 長い歳月の暗闇を打ち破って、中部の若き指導者が敢然と叫び、立ち上がった。
 わが兄弟よ! わが同志よ! 燃える心で、永遠の高貴な使命を胸に、風化しゆく中部の天地を守れ! 冒険と正義の戦いで、青春の歌を歌い上げゆく、中部の建設をしようではないか!
 その時の中核が大野和郎総中部長(当時、中部青年部長)をはじめとする、青年部十六人であった。
 彼らは、永遠の勝利の闘士として、歴史に残るにちがいない。
 彼らは誓った。
 ″民衆を苛め、苦しめる傲慢な権力とは、徹して戦う!″
 彼らは、皆、貧しき無冠の青年であった。しかし、その雄々しき「戦う心」には、すでに、赫々たる王冠の勝利の太陽が昇っていた。
5  「なにの兵法よりも法華経の兵法をもちひ給うべし」とは、日蓮仏法の真髄の仰せである。
 その時より、毎日、早朝から、真剣に、会館の仏前に端座する大野君の姿があった。
 リーダーよ、大願に立て!
 祈れ! そして自ら戦え!
 雨の日も、風の日も、わが決意を果たしゆく大誠実の炎に、中部の同志は熱く燃え、奮い立ったのである。
 「人間の歴史は 虐げられた者の勝利を忍耐づよく待っている」(『タゴール詩集』山室静訳、彌生書房)と、インドの詩聖タゴールは歌った。
 また、「単独でいる者は無にすぎない。彼に実在を与えるものは他者である」(同前)とも論じている。
6  今も鮮烈な、忘れ得ぬ光景がある。
 嵐をまた一つ、乗り越えんと開催した、第一回の中部青年平和文化祭のことであった。
 十七年前の、その日(一九八二年=昭和五十七年四月二十九日)、演目は、はやクライマックスを迎え、岐阜の県営陸上競技場のグラウンドには、組み体操の三千の若人が躍動していた。
 最後を飾るのは、五段円塔である。五基の″人間円塔″は、真ん中に一つ、それを囲んで四つが組み上げられていった。
 風が強い。
 その時、スタンドに悲鳴が走った。
 崩れた! 中央の円塔が崩れたのだ。
 私たちは息をのんだ。心で題目を送った。
 ″青年たちは大丈夫か……″
 凍りついたように、重苦しい静寂が競技場を覆った。
7  やがて、一たびは倒れた青年たちの間から、力強い声が澎湃とわき起こった。
 「もう一度、やろう!」
 「そうだ、もう一回だ!」
 不屈の若き魂は、毅然として頭を上げた。たくましい肩と肩が再び組まれた。
 一段目、二段目に続き、三段目が立った。
 さらに、揺れに耐えて、四段目も懸命に立ち上がった。
 残るは、あと一人。
 不滅の闘魂の金字塔へ、青年たちの心は一つとなった。
 中部の全同志が、広布の父母たちが、無事を祈っていた。
 立った。五段円塔が、ついに厳然と立った!
 万雷の拍手が起こった。
8  一九五三年(昭和二十八年)、あの師走の寒風の一日、私が名古屋を初訪問してから、今に四十五年余――。
 愛知に、岐阜に、三重に、わが足跡は百回を超えた。昨年(九八年=平成十年)十一月には、絢爛たる「世界青年平和文化祭」が、ナゴヤドームに花開いた。
 中部は、仏法で説く三類の強敵のあらゆる妨害に包囲され、縛られていくような、奮闘の歴史であった。
 その鉄鎖の囲いを、断固として打ち破り、新世紀へと、新しきスクラムを組み、「皆が一番、幸福である」という、福運の太陽に照らされた中部は、厳然と勝利したのだ!
9  今や、厳たる「王者の柱」はそびえ、堅塁中部の勇壮な歌声は、雄々しく、朗らかに、こだまする。
 古き戦場は、新しき華やかな舞踏の乱舞と変わった。
 中部は断じて負けなかった!
 確かな「堅塁中部」の名の通りであった。
 諸天も褒め、諸仏も讃え、大聖人が、「善哉ぜんざい、善哉」と、厳然とお守りくださっていることは間違いない。
 中部は勝った!
 人間の悪徳者、偽善者、嫉妬者、謀者に!
 「真実」と「信義」と「笑い」と「団結の歌」で勝った!

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