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日蓮大聖人・池田大作

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第二章 日本と香港――「環太平洋文明」…  

「旭日の世紀を求めて」金庸(池田大作全集第111巻)

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9  よきパートナーシップを築くために
 池田 おそらく金庸先生と結果的には同じ方向を目指すことになると思うのですが、私は経済的にも軍事的にも、何らかの"覇権"的なものにつながるブロック化には反対です。
 もちろん、日中間の経済協力は、もっともっと緊密化し、強化されていくべきだと思います。と同時に中国、日本、アメリカの信頼関係はアジア、太平洋地域の根本問題ですから、お互いに対等のよきパートナーシップの相手でありたい。世界の平和と繁栄という大局を見すえて、一つ一つ適正な選択をしていくバランス感覚――これが、日本に一番欠けているものです。
 日中関係にしても、あまりにも対米追随で場当たり的な対応に終始してきた。私は、両国にいまだ国交がない約三○年前、日中国交回復の提言を行いましたが、その点に警鐘を鳴らしたつもりです。そうしたバランス感覚がなければ、よきパートナーシップなど"絵に描いた餅"になってしまいます。
 金庸 基本的なポイントは、双方が誠心誠意、平等互恵の立場を貫くことです。どちらかが優位に立とうとか、相手を犠牲にしようなどと考えないことです。
 日本人はたいへん賢明であり、中国人も決して愚かではありません。一度でも、どちらかがだまされたり、バカを見たりしたら、もう二度目はありえないと考えるべきです。秘策を戦わせて互いに争ったり、私利私欲に走ったならば、同盟を結ぶことなど、できません。たとえ結んだとしても、すぐに仲間割れして決裂してしまうでしょう。
 池田 何であれ、「信頼関係」こそ一切の基盤です。
 金庸 フランスとドイツは元来、仇敵同士でした。ナポレオン戦争、普仏戦争から二度の世界大戦にいたるまで、長年にわたって血で血を洗う激戦を行いました。両国が互いに殺戮した青年は数え切れないほどです。
 しかし今日ではフランスとドイツはしっかりと手を結び、至誠からの団結を守り、互いに相手を配慮しながら、欧州共同体の礎になっています。
 中国と日本も仇敵同士で、長年、戦場で対峙する仲でした。しかし今日では、共通の利益をもっています。中国を侵略し、中国を支配する考え方さえ日本になければ、フランスとドイツの同盟のように、中日同盟を結ぶことができるのではないでしょうか。
 中日同盟を現実のものとするには、中国側は儒教の「仁義礼智信」の精神を、より多く発揮させなければなりません。日本側は、日蓮仏法の説く慈悲を胸に、「善の心」で人に接するという仏法の精神を、より多く発揮させなければならないと思います。
 私のこのような考え方は、ともすれば願望が現実の可能性を上回っているのかもしれません。この点、池田先生のご教示を仰ぎたいと思います。
10  「環太平洋地域の連帯」を展望して
 池田 恐縮です。深いご見解、鋭い歴史観に敬服します。中国のもつ潜在的な力と文化の厚みは、米中の劇的な国交回復を主導したキッシンジャー博士も、私との対話でつとに口にしていたことです。
 そのうえで私は、今、先生が言われた「中日同盟」の前提について、少し触れさせていただきたいと思います。
 金庸先生もご指摘のように、ひと口に「平和な世界」といっても、いっぺんにはできません。国と国との連帯なり、地域的なまとまりなりの延長上に、平和な「一つの世界」があるわけです。その平和な「一つの世界」をつくっていくためには、どんな地域のまとまりというか、枠組みが考えられていくべきか。私も、ずっと考えてきました。世界の識者の方々とも対話してきました。
 そこで、以前から強い関心をもっているのが、政治や軍事、経済に限らず、広く文化一般まで展望した「環太平洋文明」という視点です。環太平洋という地域には、日本、中国はもちろん、東南アジアやオーストラリア、南北のアメリカ大陸諸国も含まれます。一説には、世界の人口の約六割が、この地域に住んでいるともされます。当然、民族も文化も言語も多種多彩です。親しく交流した歴史すらないところもある。
 しかし、もし、その連帯が実現できるなら、まったく新しい「世界文明」の可能性を引き出していくことができる。なんとか太平洋を人類融合の「実験の海」にしていくことはできないかと、私は常々思ってきました。
 金庸 壮大な発想ですね。
 池田 かつてクーデンホーフ・カレルギー博士と語り合いました。EU(ヨーロッパ連合)の生みの親と言われる方です。
 博士は、「現代はヨーロッパ・アメリカ文明の大西洋から、次第に新しい太平洋文明に移行していく過渡期」であると指摘されていました。トインビー博士も同じように、太平洋文明の到来について語っておられた。
 両博士とも、「平和で、開かれた太平洋文明」を展望されていました。
 教育学・地理学の泰斗でもあった、私ども創価学会の牧口常三郎初代会長も、早くから環太平洋地域の重要性に注目しておりました。処女作の『人生地理学』(一九○三年刊)では、日本の位置を「太平洋通り〇〇丁目」といった表現で、わかりやすく示しています。
 「平和な、一つの世界」を見つめ、そのための「環太平洋地域の連帯」を展望する。そのうえで、日中両国の関係が果たす役割は非常に大きい。この意味から言って、日中間の多角的な協力関係は重要ですし、大いに進めていくべきだと思うのです。何しろ中国と日本は、「太平洋通り」では、丁目の違いどころか、番地の違いぐらいに近接しているのですから。
 金庸 よくわかりました。ともあれ、このような中日関係を含めた大仕事のなかで、香港がまず、中国の先駆としての役目を果たせればと希望しています。経済面にしても、日本がもし、善意をもって香港との協力を強化できれば、中国の信用と善意を増すことができ、巨大な協力関係に向けて邁進できる可能性が出てくると信じています。
 池田 香港には、多様な文化を受け入れ、諸民族の「共生の道」を模索してきた歴史があります。観念ではなく、実体験の蓄積があります。その香港の方々と信頼を結んでいけるかどうかは、日本の国際化の試金石でもあるのです。

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