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日蓮大聖人・池田大作

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織りなす人物の長篇詩 吉川英治『三国志』

「若き日の読書」「続・若き日の読書」(池田大作全集第23巻)

前後
6  曹操が好きになれなかったのは、彼が晩年になって大成するにしたがい、慢心を生じ、自分を諌める者があっても遠ざけたり、殺したりするようになったからであろう。
 そうした例を挙げて、戸田先生は水滸会員に厳しく諭されたことがある。
 「一つの組織のなかにおいても、反対の意見を出す者がなければ、その組織は発展しない。とくに青年部においては、年長者の言うなりになってしまう傾向がある。故に諸君は、幹部となっても、自分と反対の意見を述べる人を、つとめて大切に扱うようにしていきなさい」
 あたかも遺言のような響きをもっ言葉であった。
7  小説『三国志』後半の英雄は、いうまでもなく諸葛孔明である。
 その孔明こそ、恩師が好んでやまない人物であったことは、知る人ぞ知るといってよい。孔明の心境をうたい上げた土井晩翠の「星落秋風五丈原」の詩を聞くたびに、いつしか目に光るものを宿す場面を、われわれは幾度となく目にしたものであった。
 「人間おのおの長所があれば、短所もあるものだ。さすがの孔明とて、いかんともしがたいところがあろう。
 蜀の国に人材が集まらなかったのは、あまりにも孔明が才に長け、凡帳面すぎたからだ。しかも、彼には人材を一所懸命になって探す余裕もなかった。そこに後継者が育たなかった原因があると思う。
 しかし、ともあれ孔明の死後、蜀は三十年間も保ちえたのを見れば、まったく人材がいなかったわけでもない」
 いかにも万感胸に迫る思師の感想であった。
 私は、吉川『三国志』を読みかえすたびに、今でも恩師の声を聞く思いがする。

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