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日蓮大聖人・池田大作

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蓄積された風格 コスイギン首相  

「私の人物観」(池田大作全集第21巻)

前後
4  話は決して観念的ではなく、実際的である。優れた技術官僚との評価どおり、ときに学者のような分析もする。
 「国内で解決すべき問題は、まず国民経済の向上です」として、シベリア開発の現状や新しい五か年計画の目標など詳細に語られた。世界的なインフレ傾向にも触れ、ソ連の物価が安定していることを具体的な数字を挙げながら説明した。
 「例外もあります。わが国でも値上げはありました。ウオツカとアルコール製品です。しかし残念ながら飲んでいます」
 同席の対日関係者を見やりながらとう言うと、このときばかりは、笑いが起きた。笑うと威厳に満ちた顔が好々爺のように、表情が一変したものである。議論に真面目一筋のなかにも、ユーモアを解する心が隠されているとみた。
5  前後二回の会議は二時間を超えるが、コスイギン首相の話には、一貫性があった。たとえば核軍縮の問題だが、真剣な取り組みの姿勢は会うごとに強まっていた。「核は全世界が滅びるほどある。ヒトラーのような人間が、いつ現れて、何が起きないともかぎりません。核軍縮は早かれ遅かれ、人類が決定するにちがいありません」と、熱を込めて語っておられたのを思い出す。
 そのためのプロセスを尋ねたが「難しいが、ひとつは話し合いです」と、一言のもとに答えた。まず話し合っていこうという姿勢こそ、二十一世紀への進路を左右する世界の指導者に民衆が望む第一の資質であることは、いうまでもないであろう。
 ゆっくりと、かみしめるようにして一言一言を話す。その間、身じろぎもしない。鋭く要点をとらえ、頭の回転も早い。フルシチョフ前首相の失脚のあとをうけて首相の座にあること十幾年。ソ連国内で人望厚く、国際的にもクレムリンの顔となった人格的な力と冴えは、十分に見うけられた。
6  私からは世界食糧銀行の構想を述べたが、食糧問題は世界的な気候の変化によって複雑化していると指摘し「人間が戦争でなく平和のための準備をしていれば、武装を研究せずに食糧を作れる。まず戦争の考えを捨てなければ無意味です」と答えていた。私はコスイギン首相自身、そのためのイニシアチブをもってくれるよう、衷心より願わずにはいられなかった。このほか私たちは日ソの友好、米中との関係、国連の在り方など多角的に語り合った。
 私には今も鮮明に蘇ってくる首相の言葉がある。二十一世紀は明るいとみてよいか――との私の問いに、首相は「私たちは、それを望んでいます」と大きくうなずいたことである。
 二〇〇一年まで、人類は、すでに四半世紀の地点を過ぎている。緊要の課題はコスイギン首相の発言にあるとおり、まず戦争から平和への意識の変革が、すべてに優先することだと思うのである。

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