Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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パラシュートの米兵  

「私の人物観」(池田大作全集第21巻)

前後
6  生まれて初めて見たアメリカ兵の印象は、鮮烈であった。しかし、なにか戸惑いに似た感情が揺れ動いていて、うまく心の整理がつかなかった。数年来「鬼畜米英」と教え込まれてきた人間にとっては、敵国兵は、毛むくじゃらな形相も凄まじい悪鬼のような荒くれ男であるべきであったのかもしれない。連日、無差別爆撃で、わが町、わが国を焼き払う兵は、もっと残忍な風采であってしかるべきであったのかもしれない。
 ともかく、空襲警報も解除になり、私は、家族の者と家へ向かった。家へ着くと、のどの渇きをおぼえ、台所で一杯の水を飲んだ。冷たくてとてもおいしかった。体を休めようと、横になったが、パラシュートの米兵の印象が強烈すぎるのか、興奮して、眠れない。あの包みは一体何だろう……。また、「戦陣訓」の「生きて虜囚の辱を受けず、死して罪禍の汚名を残すこと勿れ」の言葉が小さな頭を駆けめぐるのであった。
7  七時ごろになったろうか。私は、外へ出た。あたりは、すっかり明るい。空は、晴天であった。昨夜の空襲がうそのように、静けさが朝を支配する。私はともかくあの米兵の落としたものを見つけたい一心であった。ひたすら落下地点めざして歩いていった。あった。それは、白い包帯の分厚い包みであった。
 私は、近くの駐在所へ、その包帯を届けた。年配の巡査は、貴重品を扱うように調べながら、緊張しながら、すぐに電話連絡をとっていた。駐在所を後にして、歩きながら、あの捕虜になったであろう若いアメリカ兵のことが気になってならなかった。
 人びとが、道端で輪になって話していた。米兵のことだった。彼は、地上に墜落するや、知らせを受けてやってきた憲兵に、目隠しをされて連行されていったという。その前に、駆けつけた人びとによって、棒でさんざん打たれたということだった。日本刀をもって「殺してやる」と駆けつけた男も二人いたという。
 私は、彼を心からかわいそうに思った。
8  彼は、疑いもなく私たちを焼き尽くそうとした圧倒的な暴力の一部分であった。当然、怒りの対象であった。しかし、私は、私の予想に反した彼の少年に近い顔が強烈な印象であったゆえであろうか。私の頭のなかは、いささか混乱を呈した。今にして振り返ってみれば、その一つの事実もまた戦争の愚を教えているように思えてならないのだ。

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