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日蓮大聖人・池田大作

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人間教育のすすめ  

「わたしの随想集」「私の人生随想」「きのう きょう」(池田大作全集第19…

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4  ここで、教育者としても大きな足跡を残した、私の恩師である戸田城聖先生の教育法に着目したい。
 それは、子供たちの旺盛な好奇心に応じて、具体的な事実から一つの学問的概念を認識させ、それから推理を積み重ねさせていって、いつのまにか複雑、高級な概念を理解させる方法で、その集大成したものが、独創的な名著、戸田城外著『推理式指導算術』となって今に輝いているものである。
 二十一世紀を前に、今、情報化時代を迎え、学問の各分野も日進月歩、躍進を示している。そして専門の知識を含めて、新たな情報は、あたかも洪水のごとく押し寄せてきている。学校で学んだ知識は、卒業後数年もたたずに役に立たなくなってくるであろう。こうした時代相を考えるにつけ、なおさら、知識をただ脳裏にプリントするだけの教育の空しさを痛感せずにはいられない。
 では、これに対する処方はいかにあるべきか。これは、人間教育の目標を、何におくべきかで決まると思う。
 結論として、おびただしい情報の大量迅速な記録、伝達を、正しく、価値ある方向に使いきっていける、主体者としての人間形成でなければならない。それに耐える人間は、創造的、個性的であることは当然のこと、さらに一歩進んで、なんでもこなせる全体人間でなくてはならないことを提唱するものである。
 ますます巨大化する科学文明のなかにあって、まかり間違えば人間はその奴隷になりかねない。あくまで主人公として君臨していくためには、英知を、時にしたがい機に応じ、存分に発揮していける人間群の創出、これこそ急務ではなかろうか。これからの教育界も、その一翼を担う決意をかためる時に当面しているといえよう。
 最後に、理想の人間教育は、ひとり教育界の陣痛のみによって日の目を見るのではないということを、当然のこととして訴えたい。
 たしかに欠点の多い現今の教育制度であるが、それも、これほどまでに灰色一色の受験コースになってしまったのは、結局は、大人の世界のエゴイズムの投影であるとしか考えようがない。
 学歴主義、有名主義、権威主義の世相を生き抜くなによりのパスポートは大学出の肩書である時代、それを敏感に感じ取る若人が、みずから打算の進学コースを選んだからといって、彼らを責めるわけにはいかないであろう。さらに、親のエゴイズムで出世主義が増幅されては、救いようがない。しかも、それを是正する最後のチャンスたる教師が、ただ、受験勉強の需要に応ずるに大わらわであっては、もはや理想の人間形成は跡形もなく蒸発してしまうであろう。
 人間教育の実現のためには、大人の社会観、価値観を、まず改めなければならないと、私は思う。すでに、人類の長年にわたる試行錯誤の結果として、生命の尊厳を根底においた民主主義を、すべての大前提とすべきことは言うまでもない。すなわち、梅は梅、桜は桜で、各人がそれぞれの分野で自分らしい花を咲き誇らしていくところにこそ、未来社会の理想像がある。
 人間はすべて平等ではないか。有名主義、学歴主義、形式主義は葬りさって、たとえ社会の一隅で、一工員として闘っている人にも、社会全体の感謝と称賛の光が注がれる時代を、少しでも早く現出することを祈ってやまない。
 よき種はよき苗となり、よき花が咲くように、よき少年はよき青年となり、よき社会の人材と育つであろう。そのためにも、よき大地となり、温床となる、物心両面の教育環境の整備と確立を急がねばならない。

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