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日蓮大聖人・池田大作

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人生の年輪・トルストイの顔 池田大作  

「四季の雁書」井上靖(池田大作全集第17巻)

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7  今回もまた、大変、我田引水の話を書きつらねてしまいました。本当は、前回のお手紙のなかにお認め戴いた、井上さん御自身が癌の恐怖へ直面し、向かいあわれた体験についての所感から書き始めるつもりでおりましたが、考えてみれば、これはもうそれだけで他人の口の容ることを許さない厳粛な内容のものです。何か感想を書こうとしても、すべてそれは無駄言であると思うようになりました。しかし、そこに書かれた事柄は、それを読んだ多くの人に勇気を与えるものであり、かつまた、それ自体、『化石』という作品の最良の解説であり、さらに井上文学を理解する一つの鍵であると考えられます。
 今はただ、私の身勝手でわがままな願いに応じて、このような内面の秘奥に属することをお洩らし戴いたことにつき、深い感謝の念を表明するばかりです。
8  ここまで霧島の研修道場で認めたあと、今日、東京に帰って参りました。そして深夜、アーノルド・トインビー博士の訃報に接しました。今世紀の最も偉大な文明史家であり、東西文明融合の英知の人であった――と最早、過去形で表現しなければならないことは、私にとって大いなる悲しみですが――トインビー博士の死去は、まさに″巨星墜つ″の感深いものがあります。とりわけお手紙のなかでお触れ戴いた『二十一世紀への対話』を、博士とともに親しく語り合った時の様子が、つい昨日のことのように懐かしく思い起され、まさしくそれも″一期一会″であったのだと思われてなりません。
 一九七五年十月二十二日

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