Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

まえがき  

「生命の世紀への探求」ライナス・ポーリング(池田大作全集第14巻)

前後
2  ポーリング博士のこと――まえがきに代えて 池田大作
 その日、雨あがりのカリフォルニアの空は、ぬけるように青く澄みわたっていた。ユーカリの並木を爽やかな風が吹きぬける。
 一九八七年二月。ライナス・ポーリング博士は私との対談のため、サンフランシスコのご自宅から空路、創価大学ロサンゼルス分校の開所まもないキャンパスまで出向いてくださった。
 こうして私たちの初めての対話が始まった。語らいは、初対面とはいえ、旧知のようなあたたかさにつつまれたものとなった。
 二十世紀科学界の巨人といわれる存在でありながら、ポーリング博士は、少しも飾ったところがなく、むしろ謙虚さと包容力にあふれていた。
 「世界平和のために、私にできることは、なんでも喜んで協力させていただきます」と慈父のごとき笑顔で語ってくださった一言は、今も私の脳裏から離れない。
 話題は科学、平和、そしてアインシュタイン博士との懐かしい思い出等々、多岐にわたり、たちまち予定の時間が過ぎ去ってしまった。
 とても一度の出会いで、すべてを語りつくせるものではない。そこで、後日、対談集として一冊の本にまとめることが合意されたのである。
 対談集完成のために、博士は並々ならぬ情熱をそそいでくださった。それは、今なお寸暇を惜しんで化学・医学上の研究にあたり、論文を書かれている多忙のなかでの作業であった。広大な太平洋を眼下に望むカリフォルニアのビッグ・サーにある別荘で、その作業を進められたとうかがっている。
 博士の評価は″現代化学の父″としてすでに不動である。さらに化学のみならず、生物学や医学の分野でも、画期的な業績をあげておられることは、本対談からもよくうかがえるところであろう。
 周知のように博士は三度ノーベル賞を受賞されている。単独で二度受賞したのは、ポーリング博士ただ一人である。ダーウィン、ガリレイ、ニュートン、キュリー夫人、アインシュタインなどと同列に並び、史上最高の科学者の一人として位置づけられている。
 博士は今年(一九九〇年)八十九歳。一九〇一年の生まれであるから、文字どおり二十世紀を生きぬいてこられた。三度の世界大戦に苦しみ、核の脅威にさらされた今世紀にあって、博士は、いかなる軍事力にも屈しない精神の力の勝利を一貫して訴え、行動されてきたのである。
 博士に対しては理不尽な批判もあった。しかし徹底したヒューマニストとして正義の信念をつらぬいておられるのは、見事というほかない。
 本対談が、そうした博士の真実の姿をより深く知っていただく機会になることを私は願っている。対談のなかで、博士は幼少からの成長の軌跡にくわえ、科学者、平和活動家としての信条を、豊富なエピソードを交え率直がつ平易に語ってくださった。
 二十一世紀へ羽ばたく青年たちが、この対談集から明日を生きるためのなんらかの示唆を得てくだされば、両著者にとって望外の喜びである。これがポーリング博士と私が対談を始めるさいの、そもそもの出発点であったからである。
 一九九〇年四月二日

1
2