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日蓮大聖人・池田大作

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人間と宇宙  

「闇は暁を求めて」ルネ・ユイグ(池田大作全集第5巻)

前後
18  私たち人間の生命は、永劫のリズムを奏でる大宇宙の調和に支えられ、また、この地球上に数十億年にわたって形成された生態圏に守られてしか、健全な生を営むことができないでしょう。このことは、生態学をはじめとする諸科学が明らかにしているとおりです。
 人間生命をその中に包含する生きた自然は、小は素粒子・原子から、大は天体の運行にいたる、壮大な階層構造をもち、絶妙なダイナミズムを奏でています。一つの階層の調和ある営みは、より高い階層の構造の中に組み込まれ、全体としての秩序を形成しながら、その自らの存在を維持しています。
 素粒子・原子によって構成される物質の領域にはその次元での法則があります。分子の次元になると、原子の世界にはない新しい性質や法則性があらわれてきます。蛋白質のような高分子化合物になると、さらに新たな性質が加わります。つまり、高分子化合物は、その中に低分子の構成要素を包含しながら、低分子のみでは考えられない高次元の調和ある秩序を形成していると考えられます。
 こうして、自然の世界は、物質界から、高分子の集合体であるオルガネラ(細胞小器官)の段階へすすみ、さらに、細胞の次元にいたって、明らかに“生命”と呼ぶことのできる状態を呈するようになるわけです。この場合の“生命”とは、生物学的な意味で使われる概念であることはいうまでもありません。
19  さらに細胞から組織、器官を経て、私たち人間生命もその中に含まれている“個体”の次元に到達します。これらのそれぞれの段階で、その独自の法則性と調和が見いだされます。
 私たち人間は、生物学的個体として、他の数多くの生物と同じ次元にあって生態圏を構成している一員です。そして、この生態圏に支えられて人びとの生存が維持されているのですから、もし、生態圏の調和を乱し、その秩序を破壊すれば、自らの破滅を招くことは当然でしょう。
 人間は、このように本来、宇宙的調和の中の一部分でありながら、個としての独自性に対する自覚を発現し、自己の存在の維持と欲望の充足のために、全体の調和をつくりかえ、社会をつくり文化を創造してきました。ここに、人間が、たんに生物学的個体であることを超えて、精神的存在となったゆえんがありますが、それは、つねに全体の調和を破壊する危険性をはらんでいるわけです。
 端的にいえば、人間の高度な精神は、宇宙的調和を破壊しようとする傾向性をもっており、それは、とりもなおさず、生物学的個体としての存在の基盤を破壊する危険性でもあります。これを食いとめるには、高度な精神的次元で、この危険な性向を制御できる別の力が確立されなければなりません。つまり、精神的次元での調和と秩序が実現されなければならないのです。私は、この役割を担うものが、同じく高度な精神の所産である宗教であると信じています。
20  とくに仏教は、人間存在の基盤である、万物の複雑な階層的構造を明らかにし、そこに働く微妙なメカニズムを“縁起観”として教えています。“縁起”とは、いっさいの事象は互いに依存しあい、助け合っているということで、いっさいの存在は、この“縁起”の産物であると仏教は示します。私は、この仏教の教えを人びとが自ら精神世界の中に取り入れたとき、エゴイスティックな衝動を抑制する強い精神的な力となり、そこに確立された調和と平衡は、かならず人間存在と環境との調和を実現していくであろうと考えています。

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