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日蓮大聖人・池田大作

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公害と自然観の変革  

「社会と宗教」ブライアン・ウィルソン(池田大作全集第6巻)

前後
8  ウィルソン そのような、価値観の社会化や文化変容の過程に、最も効果的な働きをするものが宗教であることは、私は疑問の余地がないと思います。事実、宗教こそは、この種の価値観を効果的に普及することができる、唯一の媒体でありましょう。
 制度的な調整は、素朴なルソー(注2)的楽観主義が想像したような効果は生まないということに、私たちはいまこそ気付かなければなりません。良い制度は(かりに良い制度を構成する要因について合意が得られたとしても)、本来それだけで良い人間を作るものではありません。同時に、いやおそらく根本的に、何をなすべきか、何をしてはならないかという社会的意識が広まらなければなりません。要するに、西洋的伝統の中に広まった自然観とは、まったく異なる自然観をもつ文化がなければならないということです。
 人間と自然の適合を回復する価値観を弘めることは、あなたのご指摘からもうかがえるように、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の伝統をもつ諸宗教には、不適切な仕事であるかもしれません。「人間は自然より優位にある」というのがキリスト教の有力な考え方であり、現実の世界が、そして世俗社会が堕落するというのは、これらの諸宗教の伝統に深く根差した思想です。プロテスタントの社会では、こうした方向性が、人間が自然を支配すべきであるという主張となって開花し、この気質が科学技術の発達に大いに貢献しました。
 今日、多くのキリスト教徒が、自然環境問題に大きな関心をもっています。しかし、こうした信条に立つ最も活発なグループでさえ、おそらくキリスト教の概念にはほとんど依存していないでしょう。
 たとえば産児制限のような、人間による人間性の支配も含めて、人間による自然の支配から生じている不都合な結果を、大多数の人々に分からせるためには、たしかに新しい価値観を普及し直すことが必要でしょう。もし仏教が、これらの価値観を人々に提供して、環境破壊から生じる損害や危険に目覚めさせることができるなら、仏教は、人類を人類自身から救ううえで、決定的な役割を演じることができるでしょう。
9  (注1)「内面化」
 第四部「ルネサンスと宗教改革」の項参照。
 (注2)ルソー(ジャン・ジャック)(一七一二年―七八年)
 フランスの作家・啓蒙思想家。『人間不平等起源説』『社会契約論』などで民主主義理論を唱え、フランス大革命の先駆となった。自然への賛美と人間社会への呪詛がその思想の中心をなし、「自然に帰れ」の語は有名。『新エロイーズ』『エミール』『懺悔録』『民約論』他。

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