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人口問題と避妊について  

「社会と宗教」ブライアン・ウィルソン(池田大作全集第6巻)

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1  人口問題と避妊について
 池田 人口爆発という問題は、現代の人類が抱えている最大の課題の一つです。人口増加のカーブは、一時期よりいくぶん緩やかになったとはいえ、開発途上国ではいまも増大を続けており、しかも、現在でさえ深刻な食糧不足に悩んでいる実情ですから、今後のことがいっそう憂慮されます。
 人口を抑制しなければならない場合、どうしても必要になってくるのが、避妊の問題であろうと思われます。この避妊の問題を考える場合、論議の的になるのが、いったいどの時点をもって一個の人間生命と認めるかということでしょう。卵子や精子の段階ではまだ独立した人間の生命とはいえませんが、受精卵になると、そこにはすでに遺伝学的に見ても、一個の人間としての情報を備えています。
 仏教を基盤にし、インド医学との合流によって形成された仏教医学においても、受精の瞬間を人間生命誕生の時であると考えています。仏教医学では、妊娠成立の条件として、三事和合ということを主張します。三事とは、男女の性交、女子の月経、中有身(識)(注1)という転生すべき生命主体の三つであり、人間生命の誕生(転生)は受精の瞬間であるとみなされますから、その以後の人為的中絶は生命の破壊行為ともなるわけです。
 周知のように、過去においては、戦争や伝染病の大流行などの災害により、多くの死者が出て、非情な表現をすれば人口の自然調節が行われてきました。しかし、これからの人類社会は、こうした悲惨な事態に期待すべきでないことは当然です。としますと、人口の急増をどう抑制すべきか――。今日、考えられる範囲では、避妊が最も適切な人口抑制の方法といえましょう。
 また、母体の安全を守るうえからも、妊娠してからの堕胎などによるのではなく、受精して人間生命としての形成が始まる以前に、調節をするのが合理的でもあると私は考えておりますが、いかがでしょうか。
2  ウィルソン おっしゃる通り、過去においては、さまざまな事態によって、効果的に人口の抑制がなされてきました。幼児や小児の死亡はごく一般的なことであり、成人の平均寿命自体も、今日よりはるかに短いものでした。戦争や疫病が、若い成人の寿命を奪っていたのです。
 人口過剰を抑制したのは、こうした自然の原因ばかりでなく、人間自身が、入手可能な資源を涸渇させない手段を講じた例もありました。いくつかの未開民族にあっては、老人たちは、自分が邪魔になってきたことを感じると、自ら居住地を出て行きました。
 その他の事例としては、一妻多夫制が効果的に人口の増加を抑えていました。また、一妻多夫制に関連したものか、あるいはそれ独自のものであったかは別として、社会によっては嬰児の間引きが、人口と資源の均衡の維持のために行われていました。また、心の動揺を少なくするためにもより早い時点で出産の過程を中断する堕胎は、古代社会でも広く行われていました。
 このような、人間生命が実際に殺害されるという、心も痛む悲惨な過去の手法によるよりも、今日では、あらゆる面で好ましい方途が、科学によって可能になっています。避妊は、人類史上、最も重要な技術的進歩の一つとみなさなければならないでしょう。もし、避妊によって、人間関係に濃やかな感受性が失われることがなく、また、出まかせの行為がもたらす“結果を始末する”という考え方に陥るのでなく、性道徳の秩序が維持されるのであるかぎり、その補助手段が薬剤であっても、操作によるものであっても、避妊は、人類の要求と進歩に対して調和のとれた見方をするあらゆる人から、必ず歓迎されるに違いありません。
3  これについて唯一つ残念に思われるのは、こうした技術に関する知識がまだ十分な範囲に、また十分速やかに普及しておらず、したがって、生命の維持に必要な資源全般にわたる欠乏を招いている人口の恐るべき増大という、世界がいま直面している事態を防ぐのに、それが役立っていないということです。
 ただし、最も有効な避妊技術に関する十分な知識が、いまかりに世界中に普及したとしても、私が人口増大による破壊的な影響として恐れているものを免れることはできないでしょう。そしてまた、現代の科学の力をもってしても、いま増大しているような人口数の要求に応じうるだけの、食糧、燃料、住居の材料といった生命維持の手段を、短時日のうちに見出せるとも考えられません。しかし、避妊技術の知識を広めることをせずに何か別のことをしようとするのは、まったくの愚行であると思われます。それは人類にとって、人類に対して、あまりに無責任なことでしょう。
4  (注1)中有身
 仏法では有情(感情・思考能力をもった生命体)が誕生し、死んで次の誕生を迎えるまでの過程を生有、本有、死有、中有の四つに分ける。生有は誕生、本有は生存、死有は死去、中有は死から次の生までの間をいう。中有身とは死の状態にある生命主体のこと。

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