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日蓮大聖人・池田大作

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遺伝子組み換えに対して  

「社会と宗教」ブライアン・ウィルソン(池田大作全集第6巻)

前後
7  池田 日本では、遺伝子工学への関心が急激に高まっていますが、この分野の発達に対する市民の反応は、ようやく盛り上がりを見せ始めたところです。P3施設(注4)を作ろうとした研究所に対して周辺の住民が反対に立ち上がった例や、市民グループとしてDNA(遺伝子)問題研究所を発足させた例があります。現在のところ、参加メンバーは主として主婦、学生、ジャーナリスト、それに少数の科学者たちであり、なかには身体障害児を抱えている人もいます。
 日本にも、教授が英国の状況として指摘されたように、公平なる善意をもち、公職に献身できる時間的余裕のある人々は、ほとんどいないようです。特に、この三十年間の高度経済成長の風潮の中で、教授の言われる専門家意識が伸長してきました。
 それ以前、つまり第二次世界大戦以前には、まったく善意でこの種の仕事を引き受ける余裕のある人もいました。また、医師のなかにも、自分の専門のみならず、社会倫理に関する公共分野に積極的に取り組んだ人もいました。しかし、今日では医師でさえも、金銭のために働いているような人が少なからず見受けられます。私は、時間的余裕の問題は別にしても、自分のエゴや職業意識のみに囚われることなく、人類全体、社会全体のために尽くす使命感が何より大事であり、それを養う源泉は、何よりも宗教に求められると考えています。
8  また私は、たとえ素人の委員会であっても、専門的知識をもった人々の十分な協力があれば、事の是非を判断することは可能であると考えております。たとえば、遺伝子組み換え技術の危険性が問題になったとき、ハーバード大学のあるケンブリッジ市の委員会は、適切な判断を下しました。そのときのメンバーは、ケースワーカー(注5)、看護婦、都市政策学教授、建築技術者、伝染病専門の医師、暖房器具商たちでした。この委員たちは、ほとんど毎週のように専門家を招いて勉強し、そのうえで市民として意見を表明したのでした。
 もちろん、このような素人の委員会も、教授の指摘されるように、新たに専門職化する危険性をもっており、これをどのように防止するかは、きわめて大きな問題です。
9  (注1)遺伝子工学
 ある生物(もしくは細胞)に遺伝子操作を施して増殖させ、病気の治療や有用物質の生産その他の工業技術に応用する学問。
 (注2)遺伝子組み換え
 ある生物の遺伝子(DNA)の断片を別の遺伝子断片に組み込んだり、一部を置き換えたりする技術。一九七三年にアメリカ・スタンフォード大学のスタンリー・コーエン博士によって初めて行われた。
 (注3)NIH
 ナショナル・インスティチューツ・オブ・ヘルス(NationalInstitutesofHealth)国立衛生研究所(米国)。
 (注4)P3施設
 遺伝子組み換え実験等によって動植物に感染させた微生物、細菌等が実験室から漏出する恐れがあることに対して、文部省学術審議会が漏出防止のために設けたガイドラインで、規制度を軽い順からP1~P4の四段階に分けている。P1は普通大学の研究室等に適用されるもので、P3の段階では安全キャビネットの設置を義務づけ、外部へ空気が出ないようにする等かなり厳重な規制があり、このランクの実験所・研究所をP3施設という。Pは、Physical(物理的)の意。
 (注5)ケースワーカー
 精神や肉体、また社会的に欠陥をもつ人々の生活環境などを調べて、診断や治療に役立てようとする社会福祉事業に携わる人々。

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