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日蓮大聖人・池田大作

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3 現代都市の諸問題  

「二十一世紀への対話」アーノルド・トインビー(池田大作全集第3巻)

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2  (2) 交通機関の未来像
 池田 次に、将来の都市交通機関はどうあるべきかについて、ご意見を伺いたいと思います。
 今日の交通機関の主役は、いうまでもなく自動車ですが、バスは別として、自動車は輸送手段としてはきわめて効率が悪く、運ぶ人数の割に道路で大きな面積を占めるという欠点があります。しかも混雑による交通マヒのため、自動車本来の利点であるはずのスピード性も失われ、また一方通行などの交通規制によって、どこへでも行けるという自在性も低下しています。また、有限の石油資源を消費し、大気を汚染しています。さらに、人間に与える殺傷度も大きく、わが国ではしばしば″走る凶器″とか″走る棺桶″などといわれているほどです。
 だからといって、私は自動車を全廃すべきだというつもりは、もちろんありません。ただ、時代の趨勢として、このままでは自動車のもたらす弊害がますます増えていくでしょうし、都市交通が動脈硬化に陥ってしまう心配があることから、早急に何らかの対策が講じられなければならないと考えるわけです。
 トインビー 私は都市内では、ただ一つの例外として医師の車だけを除いて、あとはすべての自家用車が立ち入り禁上になるよう期待します。そして、この禁止区域内は、公共の交通機関によって独占されることが望まれます。そうすれば、この公共の交通機関は、その数も増え、スピード性も増し、料金も安くなることでしょう。
 その場合、郊外から都市へ向けてやってくる自家用車に対しては、すべて都市周辺の駐車場に止めるよう指示が出されるべきでしょう。これは、すでにベニス市で実施されていることです。また、商業用のトラック類が都市内への立ち入りを必要とする場合にしても、それは公的交通機関の乗客たちの交通量が、最も少なくなる時間に限って、短時間だけ乗り入れを許可すべきでしょう。平日の朝夕のラッシュアワーには、商業用車両の市内通行を禁止すべきです。
 池田 日本でも日曜日などは、大都市の繁華街への自動車乗り入れを禁止して、歩行者に開放するようにしている例があります。これは、ニューヨークが初めて試みたことを模倣したもので、それなりに利点はあるものの、都市交通問題に抜本的な解決を与えるものではありません。
 私は、もし根本的な解決を考えるのなら、自動車の生産や販売台数を、道路施設の許容量と勘案して、厳重に規制することが先決だと思います。また、交通事故を減少させるには、運転免許を認可するさいに、より厳格な性格審査や運転上の道徳教育を行う必要があるでしょう。
 もちろん、博士が指摘されたように、自動車がなくても困らないように、都市部と近郊の公共交通機関を充実させることは必要です。私は、おそらく未来の都市交通機関は、自動車に代わって地下鉄、高架電車、モノレールなどが主役になるのではないかと予想します。
 トインビー 自家用車の総台数は、当然、制限すべきです。立ち入り禁止区域以外での運転を許可される車の台数も規制しなければなりません。また、運転免許の取得条件も、より厳格にすべきです。
 自動車に関する行政上の方針としては、いつの場合も、常に経済的配慮より社会的配慮を優先すべきでしょう。ところが今日、自動車製造業者たちは、彼らが頑張ることによってたとえ社会的にどんな悪影響が出たとしても、最大限に生産するよう奨励されています。これは最大限の生産が最大限の利潤、一雇用、輸出を促進するところからくるのです。しかし、そうしたことは、営利のために生活を犠牲にするような社会でとられる方針です。
 このような方針が招く悪い結果もまた、われわれ人間の価値の優先順位を抜本的に変革する必要があることを物語る、数多くの材料の一つです。

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