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日蓮大聖人・池田大作

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第26巻 「厚田」 厚田

小説「新・人間革命」

前後
59  厚田(59)
 山本伸一は、さらに、戸田城聖が姪に送った別の手紙を紹介した。
 「『私は仏教を信じている。仏教の極意は仏の道を行ずる事だ。仏には怨みや怒りやそねみはない。人を助ける事が仏の道だ。だからお前も上京したら仏道を行じて、仏を信じてもらいたい』
 戸田先生のお手紙は、自然に仏法対話になり、指導になっております。
 仏法を持った私どもの信念、言動は、本来、『人を助ける事』に貫かれていなければならない。信心即生活です。日々の生き方、生活それ自体が、仏法を表現し、弘教につながってこそ、真の仏法者といえます。
 また、先生は、このお手紙では、『仏には怨みや怒りやそねみはない』と言われながら、先ほど紹介したお手紙には、『敵味方を峻別せよ』とある。実は、ここに、重大な意義があります。
 『敵・味方』とは、悪か善かということです。その峻別ができなければ、姪御さんの幸せも、また、私どもの信仰も攪乱され、現実において敗北してしまいます。
 大聖人は『悪知識と申すは甘くかたらひいつわび言をたくみにして愚癡の人の心を取つて善心を破る』といわれている。
 悪知識というのは、仏道修行を妨げ、幸福への道を誤らせる悪徳の者であり、悪友です。この悪知識という敵は、甘く語らい、嘘をつき、媚びて、言葉巧みに近づき、心を許すように仕向け、退転させていくんです。
 ゆえに、悪を悪と見破り、戦うことが大事なんです。悪と戦わぬ善はありません。悪を打ち破ることが、慈悲にもなるんです」
 ――「悪人の敵になり得る勇者でなければ善人の友とはなり得ぬ」とは、初代会長・牧口常三郎の珠玉の指導である。
 東京に戻る十月九日の午後、伸一は、戸田講堂での北海道幹部会に出席した。参加者は、広宣流布の前線基地を担うリーダーである大ブロック長、大ブロック担当員(現在の地区部長、地区婦人部長)の代表であった。
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 北海道幹部会で山本伸一は、皆の健康と長寿、一家の繁栄を願って、ともに勤行した。
 この席上、伸一は、北海道の研鑽御書を「御義口伝」と定め、皆で学んでいってはどうかと提案。賛同の大拍手が会場を包んだ。
 さらに彼は、大ブロック組織の重要性などについて語っていった。
 「大ブロックこそ、創価学会の縮図であり、大ブロック幹部は、地域広布の要です。
 学会活動のさまざまな事柄が、大ブロックに集約される。弘教や機関紙誌の購読推進、座談会の結集等々、日々、あれもこれも、たくさんのことが滝壺に降り注ぐように集まってくる。それを受けて立ってくださっているのが皆さんであることを、私は、よく知っております。しかも、生活のうえでも、さまざまな悩みをかかえておられるでしょう。
 ともすれば、疲れて、歓喜も失せてしまい、ただ言われたことをこなしているという感覚に、陥ってしまうこともあるかもしれない。しかし、受け身になってしまえば、力は出ないし、喜びもありません。
 そんな自分を、どう鼓舞していくか――実は、そこからが本当の信心の戦いなんです。
 受け身の生命を打ち破るために、私たちの活動は、すべて広宣流布の聖業であり、仏に代わって、仏の使いとしての誉れの行であること、また、最高の社会建設の実践であることを思い起こしていただきたい。
 そして、わずかな時間を見つけては、真剣に唱題していくことです。さらに、一行でも、二行でも御書を拝し、学会の指導を学び、なんのための信心であり、仏道修行であるかを、確認していくことです。
 また、信心の触発を与えてくれる先輩など、同志の存在が大事です。人間は孤立し、一人になると、どうしても弱くなってしまいがちです。そうならないために、互いに励まし合っていける善友が必要なんです」
 ゆえに大聖人も、法華経を引かれて、「悪知識を捨てて善友に親近せよ」と叫ばれているのである。
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 参加者たちは、山本伸一が、自分たちの置かれた状況を、あまりにも的確に語っていることに感嘆しながら、話に耳を澄ました。
 「大聖人は、『一生成仏抄』のなかで、『仏の名を唱え、経巻を読み、華を供え、香をたくことまでも、すべて自分自身の一念に功徳・善根として納まっていくのだと、信心を起こしていきなさい』(御書383㌻、通解)と仰せになっています。
 つまり、勤行をはじめ、広宣流布のための私どもの活動の一つ一つが、自身の、また一家の、功徳、福運となり、幸せを築く大切な根っこになっていることを、強く確信していただきたいのであります。
 そして、活動に際しては、常に積極的であることです。さらに、組織としての目標だけでなく、自分個人の目標を明確にし、その成就と、自身のさまざまな苦悩の転換をかけて、祈り抜いて戦っていくんです。『広布の勝利』は『生活の勝利』になります。『活動の歓喜』は『人生の歓喜』になります。
 『学会活動が大好きだ!』『折伏が大好きだ!』という人の境涯は、仏なんです」
 喜びの大拍手が響いた。
 「皆さんのなかには、自分たちの上には総ブロック幹部や本部幹部もいるので、役職的には低いように感じている方もいるかもしれない。しかし、それは組織上の役割の問題であって、信心の厚薄や境涯の高低ではありません。私どもの信心は御本尊直結です。
 むしろ、広宣流布を決する最も重要なポジションであり、信心を深める理想的な立場が、大ブロック幹部ではないかと、私は思っています。もし、可能ならば、私も大ブロック長として戦いたいんです。苦労も多い分だけ、最も喜びがあるではありませんか!」
 伸一が指導を終え、退場したのは、午後一時四十分であった。その五分後、彼は厚田の戸田講堂を出発し、東京へ向かったのだ。
 ″世界広布誓願の師弟の天地・北海道に勝利あれ! 栄光あれ!″と祈りながら――。

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