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日本医学者大会 人類の医学の光源たれ(メッセージ)

1986.10.1 「広布と人生を語る」第10巻

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1  人類愛と慈悲の医学の実現をめざして幅広い活躍を続けておられる世界のドクター部の皆さまに、私はつね日ごろから最大の敬意をはらっております。
 明秋には、世界各国から妙法の医師が集い、「世界平和と医師の使命」をメーンテーマに世界医学者シンポジウムが開催されるとうかがっております。本日の日本医学者大会では、その成功へ向けての貴重なステップとして、現代医学が直面する人類次元における生命の諸問題について真剣な討議が行われると思いますが、この重要な会議にあたり、一言あいさつを申し上げたい。
 西洋近代科学に基礎をおく現代医学は長足の進展を遂げ、人類の幸福と繁栄に多大の貢献をなしてきたことはまちがいありません。とくに、抗生物質の発見、公衆衛生観の確立等によって多くの伝染病が克服され、また外科手術も輸血技術とあいまって、心臓や脳にまでメスを及ぼしうる状況となってきました。そして今日、心臓病などの循環器系の疾患、癌、あるいは心身症等の病にも、勇敢な挑戦をなしております。しかし、この医学の進展そのものが、多くの深刻な課題を生み出しているのも事実であります。
 私は、そうした人類のみならず地球上の生物にも深い影響を与える現代医学の課題を、二つの側面に分けて考えることができるのではないかと思っております。
2  一つは医学における人間性喪失の問題であります。医師は病気を見て、人間を見失っているとの指摘が多くの識者からなされております。
 たとえば、優れたジャーナリストであり、膠原病と重症の心臓病にかかりながら、いずれも信念と意志の力に支えられて、死の淵から奇跡的な生還を遂げたノーマン・カズンズ氏は「われわれは微生物に対する戦いには大体勝利をおさめたが、精神的安静をかち得るための戦いには敗北をつづけている」と述べております。そして、今日の医学教育にもっとも必要なことは「均整のとれた、人間らしい人、人間の罹っている病気だけでなく、人間そのものに関心を持つ人、病気の兆候だけでなく、病苦の実際を理解できる人、人間味を失わない処方箋を書く人……」を育成することであると、具体的かつ適切な指摘をしております。
 たしかに、病気の身体面の診断と治療にはめざましいものがありますが、一面、病に苦しむ人間存在、とくに病者の生命内奥の問題と生き方、ひいては病者をとりまく家族や社会のあり方の問題等への真摯なアプローチを欠落している場合が多いのではないでしょうか。この問題と、成人病や心の病の増加とは暦接な関連があるように思われるのです。
3  次に、生と死をめぐる倫理的課題の噴出であります。これは、医学が発達したゆえにこそ生じてきた、きわめて今日的な課題であります。
 「生」をめぐっては、人工授精、体外受精、人工中絶、男女の産み分け、胎児診断と遺伝子治療ならびに操作等の課題があります。一方「死」に直面する課題にも、癌宣告のあり方、脳死による死の判定の問題、人工延命技術と植物人間、さらには近似死体験の見方、「死の臨床」への関わり方等が重要なものとしてあげられましょう。
 これらを一律に論ずることはできませんが、時代の底流には、生あるものはかならず死ぬという、いわゆる”本有の生死”の実相を直視しょうとするどころか、生死をも気ままな欲望の支配下におこうとする人間自身の病理が、私には感ぜられてならないのであります。
 たとえば、人間の生死を支配する重要な臓器の一つである腎臓が高い値段をつけられてヤミ売買されているというショッキングな事実が、アメリカや日本でリポートされております。こうした現象は、人間の死をも利用しょうとする現代商業主義と自然科学の奇妙な結合という以外にありませんが、いかにも現代文明の非人間的な側面を象徴しているように思われます。
 これら生と死の二つの領域にわたる課題は、いずれも医学の分野だけでは対処できない深刻な状況を呈しております。もし、その方向性を誤れば、一方では医師と患者の信頼関係を破壊するどころか、人間の心の病の蔓延はますます深刻化し、広がっていくでありましょう。他方、人間の生と死を支配化しょうとするあくなき欲望は、生命の尊厳性、さらに生命それじたいの破壊をも引き起こしかねない危険性をはらんでおります。
 私は仏法者として、仏法の説き起こす深遠な生死観、生命観にこそ、現代医学の直面する課題を克服しうる確かな基盤があると考えております。
 仏法は、その出発以来、生老病死の四苦を直視し、本源的な超克の哲理を提示しっづけてきました。たとえば、煩悩即菩提の法理や宿業の転換の方途は成人病、心の病を克服しゆく貴重な知見を提示しうるし、依正不二、色心不二等の哲理は人間生命の実像をあますところなく開示してくれるでしょう。
4  そうした永遠の生死に立脚した仏法の生死観と、菩薩道として示された人間本来の生き方にこそ、今日の倫理的課題に挑戦しゆく宗教的・哲学的基盤があることも確信しております。
 「四面とは生老病死なり四相を以て我等が一身の塔を荘厳するなり」と日蓮大聖人は仰せです。四苦という人間の根源的な苦悩と真正面から対決しっつ、自身の生命を最高に輝かせていく、その激闘のなかにこそ人間性の真実の勝利があるといえましょう。
 ”慈悲の医学”を掲げた世界のドクター部の皆さまが、この大聖人の仏法を自ら行じつつ、そのうえ、それぞれの専門分野の知見を交流させ、現代医学が直面する生命の諸問題に取り組まれていることは、人類と地球の未来にとって重大な意義があると信じております。
 この会議から、世界中の人々が希求する人類の医学の方向性を指し示すような知見が発表され、未来の医学をリードしうる光源となりうることを、心から期待しております。

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