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日蓮大聖人・池田大作

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『法華経』とブルガリア写本  

「美しき獅子の魂」アクシニア・D・ジュロヴァ(池田大作全集第109巻)

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17  池田 確かに、ブルガリア写本とそれを支えたスラブ民族の伝統は、放浪する運命となりました。そのような困難にもかかわらず、ブルガリアが保持してきた伝統が、ロシアに伝わり、新たな展開を見せた事実がありますね。
 ジュロヴァ ブルガリア写本の長い伝統は、ある人たちにとっては保守的なものと思われるかもしれません。しかしこれは、国民としてのアイデンティティーを外国に侵食されることに対する、民衆救済のための錨だったのです。
 池田 ブルガリア写本と同様、仏教徒も経典写本を伝えようと、命がけで奮闘しております。そのなかでも、世界的に有名なのは、敦煌の莫高窟の第十七窟「蔵経洞」の逸話でしょう。井上靖氏の小説『敦煌』では、西夏が侵入してきた混乱時に、数万点にものぼるという経典、文書を後世に伝えようとしたと描かれています。
 今回の「法華経」展にも、ロシアのオルデンブルク探検隊が敦煌で入手した、竺法護訳『正法華経』や鳩摩羅什訳『妙法蓮華経』などの写本が展観されていました。敦煌と言えば、思い出すのが、第二章でもふれましたが、故・常書鴻先生です。中華人民共和国誕生のさいの内戦、文化大革命の折の芸術弾圧などをすべて乗り越えた“敦煌の守り人”です。
 仏典にせよ、ブルガリア写本にせよ、深い信仰、民族の誇りから、それぞれの時代に、種々の苦難を乗り越えた人々がいればこそ、貴重な文献を後世に伝えられた――これは、峻厳な事実です。
 そして、ブルガリア写本は、その逆境をもバネとして、さらに芸術性を高めていきました。敦煌も多数の文物の流出、たび重なる破壊にもかかわらず、常書鴻先生はじめ敦煌文物研究所の人々が、すばらしい復元を行っています。そのたくましさに、心から敬意をはらいます。

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