Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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序 章  

「平和と人生と哲学を語る」H・A・キッシンジャー(全集102)

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8  核エネルギーの管理について
 技術の効率性、防護シェル等の安全対策、技術管理に関する国際的な基準を設けること
 池田 次に世界的な重要課題である、核エネルギーの管理についても若干触れておきたい。
 ソ連のチェルノブイリ原子力発電所の事故以来、核エネルギーの管理についての論議が国際的に高まっております。
 私は、第一回国連軍縮特別総会(一九七八年)に寄せて、「核軍縮および核廃絶への十項目提言」を発表しましたが、その中で、核兵器の全面的廃棄と通常兵器削減に向かう前段階として、国連がイニシアチブ(主導権)をとり、まず、当面、核エネルギーの安全な管理が可能となる道を模索すべきである、と提案しました。
 その内訳の第一段階は、核エネルギーを国連の監視下に置き、その安全な管理にゆだねるよう働きかけるべきだということである。
 国際的に核エネルギーの管理に大きな関心を呼んでいる今こそ、核の脅威をめぐる状況を一歩前進させるチャンスであると考えます。
 キッシンジャー これはきわめてむずかしい問題です。一面では、現代の工業国のなかで、核エネルギーを利用しなくても、他にエネルギー源が十分にあるという国がいくつあるのか、それを見きわめるのが困難です。
 たとえば、フランスは将来そのエネルギーの六〇パーセント以上を核エネルギーで確保することになっていますから、途中で断念するわけにはいきません。すでに三〇パーセント以上を核に頼っている西ドイツ、まもなく六〇パーセントを超えるソ連についても同じです。
 もちろん安全性の問題があります。チェルノブイリの事故の後、西側工業国はソ連に対して「どうしてもっと早く知らせなかったのか」と非難しましたが、私はその非難は誤りだったと思います。
 というのは、現地当局が事をひた隠しにしていたため、ソ連政府自体、いったい何が起きているのかわからなかったと思うのです。
 池田 それは大変興味ぶかい発言です。あの原子炉は黒鉛チャンネル型という古い型のもののようですけれども、管理システムに、なんらかの欠陥があったのでしょうか。
 キッシンジャー いずれにしろ、チェルノブイリの事故があったからといって、核エネルギーをすべて危険視すべきではありません。
 チェルノブイリの事故でいろいろなことがわかりました。まず、ソ連の核平和利用の技術は西側の核技術よりも遅れております。
 池田 なるほど。その点はよくわかります。ソ連には一〇〇万キロワット級原発が十四基ある。そのうち今回のチェルノブイリと同じ型のものは十二基とも言われますね。
 キッシンジャー ソ連では、平和利用のための原子炉を核兵器用プルトニウムの製造にも使用しております。ですから極度の危険を冒すことになったのです。さらに、ソ連は安全対策の面でルーズでした。
 たとえば、西側の核エネルギー工場では、原子炉はすべて防護シェルで囲まれております。したがって、事故が発生したとしても、汚染が広範囲におよぶことはありません。ソ連では防護シェルが使われておりませんでした。
 池田 技術面において、安全を第一義にしていくべきである、との博士の見解はまったく正しいと思う。というのは、この二年間においても、いくつかの国で、人為的な理由のみならず、技術的にもきわめて重要な問題をはらんだ原発事故がかなりあったという事実があるからです。
 キッシンジャー ソ連の作業員や技術者は訓練があまりよく行き届いておりませんでした。しかも、西側では絶対に認められないような実験を行っていたのです。西側や日本の原子炉は、だれかがその安全装置を全部遮断しようとしても、決して遮断できないようにつくられているはずです。
 必要なことは、互いに批判しあうことではなく、さまざまな面にわたって国際的な基準を設けることです。
 第一に、技術の効率性です。ある型の原子炉は建造を禁止すべきです。たとえば、ソ連が使用している黒鉛減速炉ですが、この型は、事故が発生したら、制御することはできません。
 第二に、防護シェル等の安全対策がなければなりません。
 第三に、技術管理に関する国際的な基準が必要です。
 池田 大賛成ですね。
 キッシンジャー 西側はソ連と協力して、そうした基準の設定を支援すべきでしょう。
 一方、ソ連は汚染地域の浄化という面で経験を積んでいるようです。先般の事故の場合も、何が起きたのかを理解するのに数日かかりましたが、いったんそれがわかると、後はきわめて効率よく行動しました。
 このことからみても以前に何回か事故があったことは明らかです。でなければ、あれだけの経験を積んでいるはずがありません。したがって、双方が経験を交換しあうことができるのです。
 池田 よくわかりました。ともかく巨大な科学の力は、諸刃の剣であることを忘れてはならないでしょう。
 核の平和利用における安全対策についても、ぜひ東西の協力を希望したい。これは全世界の切実な願望だからです。それをどのように具現化させるかは、こんどは国家間の、政治次元の問題になりますが、大変示唆に富んだお話であると思う。
  

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