Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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千里の道  

小説「人間革命」1-2巻 (池田大作全集第144巻)

前後
15  戸田城聖は、焼け跡の一隅に腰を下ろして、ありし日の客殿のたたずまいを思い返していた。すると、ふと思師・牧口常三郎の面影が、頭をかすめた。
 彼は、思った。
 ″学会は壊滅させられ、恩師は獄死された。これほどの弾圧が、過去にあっただろうか、断じてない。日蓮大聖人の御聖訓に照らして考えるなら、日本の国が焦土となり、滅亡したのも、まさしく、この弾圧の結果ではないのか……″
 彼は、そこに厳然たる因果の法則を見る思いがした。
 彼は、杉木立の梢を見上げた。広々とした大空に目を放った。大聖人の御書の一節を、彼は、われ知らず、かみしめていた。
 「大悪をこれば大善きたる
 御金言は、間違いない。それならば、未曾有の興隆の時は、今をおいて絶対にない。今、この道は、千里の道に見えようとも、それは、凡夫の肉眼の距離にすぎない。死身弘法の精神があるならば、広宣流布は必ず成就できる。
 彼は、閑散とした境内を眺めつつ、腰を上げた。
 「さぁ、いよいよ始まるぞ」
 彼は、静かに力強く言った。皆も一緒に立ち上がった。だが、いったい何が始まるのか、誰にもわからなかった。
 この日の午後、一同は、そろって下山した。富士宮駅でも富士駅でも、長い間、列車を待たなければならなかった。
 寒い、暗い、東京に着いた。
 戸田が帰宅してみると、時計は午前零時を回っていた。

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