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日蓮大聖人・池田大作

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古代都市の栄光と悲劇 リットン『ボンベイ最後の日』

「若き日の読書」「続・若き日の読書」(池田大作全集第23巻)

前後
7  ボンぺイの発掘は、一七三八年以来、組織的に行われ、ローマ帝政時代の古代都市の全貌がしだいに明るみに出されていった。リットン卿の歴史小説が欧米で反響を呼んだのは、それより百年たったころである。それに刺激されてか、一八六〇年以後、本格的な発掘作業がなされるようになった。以来百年、埋没当時のポンペイ市の三分の二、あるいは五分の四はふたたび陽光を浴びて地上に姿を現し、今日なお発掘は続けられているという。
 埋没当時の模様は、リットン卿の小説では大惨事のように描かれているが、二万人以上の人口のうち死者は約二千と推定され、大半は海上への脱出に成功したようだ。ただし富豪の家に死者が多く、両手に金貨や銀貨を握りしめたまま死んでいたり、宝石箱を持ったまま息絶えた人も見られるという。
 おそらく、一旦は逃げだしたのに、噴火が一時おさまりかけたのを見はからって家に戻り、持てる金銀財宝を運びだそうとしたのだろう。ローマ帝国の富豪たちは、数百あるいは数千人の奴隷を使用していたという記録もあるが、これらの死者のなかには、主人のために財宝を持ちだそうとした忠実な奴隷も含まれているかもしれない。だが、金銀財宝のために生命を落としたその姿は、人間の悲しい性を示しているように思えてならないのである。
 いずれにせよ、ボンベイの最後の一日は、人間の運命と文明の興廃というものを、いやでも深刻に考えさせる。ちょうど今から千九百年まえのその日に何が起こったのか。──懐かしい少年時代の本のぺージをめくりながら、私は遥かな歴史の回想に眠りつつ筆を擱くことにしたい。

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