Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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第4巻 「大光」 大光

小説「新・人間革命」

前後
34  大光(34)
 山本伸一の脳裏に、戸田城聖の第一の遺訓となった「原水爆禁止宣言」がまざまざと蘇った。
 ──あの宣言の精神も、″人間の生命に潜む魔性の爪をもぎ取れ″ということであった。魔性に打ち勝つ力はただ一つである。それは、人間の生命に内在する仏性の力だ。
 仏性とは慈悲の生命であり、破壊から創造へ、分断から融合へと向かう、平和を創造する原動力である。人間の胸中に、この仏性の太陽を昇らせ、魔性の闇を払い、人と人とを結びゆく作業が、広宣流布といってよいだろう。
 車は、再び、ブランデンブルク門を望む、の前に出た。伸一は、もう一度、ここで車を降りた。
 いつの間にか、雨はすっかり上がり、空は美しい夕焼けに染まっていた。
 荘厳な夕映えであった。太陽は深紅に燃え、黄金の光が空を包んでいた。
 それは、緊迫の街に一時の安らぎを与え、心を和ませた。
 一行が夕焼けを眺めていると、近くにいた、ドライバーの壮年が、笑みを浮かべて教えてくれた。
 「こんな美しい夕焼けの時には、私たちは、こう言うのです。『天使が空から降りて来た』と……」
 辺りの塔も、ビルも、そして、閉ざされた道も、ブランデンブルク門も、金色に彩られていた。
 伸一は思った。
 ″太陽が昇れば、雲は晴れ、すべては黄金の光に包まれる。
 人間の心に、生命の太陽が輝くならば、必ずや、世界は平和の光に包まれ、人類の頭上に、絢爛たる友情の虹がかかる……″
 彼は、ブランデンブルク門を仰ぎながら、同行の友に力強い口調で言った。
 「三十年後には、きっとこのベルリンの壁は取り払われているだろう……」
 伸一は、単に、未来の予測を口にしたのではない。願望を語ったのでもない。
 それは、平和を希求する人間の良心と英知と勇気の勝利を、彼が強く確信していたからである。また、世界の平和の実現に生涯を捧げ、殉じようとする、彼の決意の表明にほかならなかった。
 一念は大宇宙をも包む。それが仏法の原理である。
 ″戦おう。この壁をなくすために。平和のために。
 戦いとは触発だ。人間性を呼び覚ます対話だ。そこに、わが生涯をかけよう″
 伸一は、一人、ブランデンブルク門に向かい、題目を三唱した。
 「南無妙法蓮華経……」 深い祈りと誓いを込めた伸一の唱題の声が、ベルリンの夕焼けの空に響いた。

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