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日蓮大聖人・池田大作

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第四章 人生の幸福・仏法の死生観  

「生命と仏法を語る」(池田大作全集第11)

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1  医学的に証明された「生涯青春」
 ── 最近は、高齢化社会ということが問題になっていますので、そのへんから、お願いしたいと思います。
 池田 わかりました。なんですか、最近、アメリカの数人の博士が、人間の脳の重要な働きのなかには、その人の生き方によって、年を経るごとに活発になるものがかなりある、と発表した、という話を聞きましたが、屋嘉比さん、本当ですか。
 屋嘉比 ええ、本当です。
 ── われわれ、中年には朗報ですね。(笑い)
 屋嘉比 昨年(一九八四年)、すでに「ニューヨーク・タイムズ」が、その研究成果を「老人と脳の働き」というテーマで、まとめて報道しています。
 池田 一般的には、人間の脳の働きは、ある年齢に達すると衰えていく、ということのようでしたが……。
 屋嘉比 ですから、今回の調査で注目されるのは、人によっては、八十歳ちかくなっても、知能が進歩している、という報告なんです。
 池田 それは、どのような研究調査をしたのでしょうか。
 屋嘉比 アメリカの国立老化研究所が、二十一歳から八十三歳までの男性の脳を、断層写真で撮影し、その結果をまとめました。
 脳の働きのなかには「結晶型知能」という、物事の判断力、洞察力をつかさどる働きがあります。
 その調査によると、その働きが、青年や中年よりも、老人のほうが、明らかに優秀な場合がある、というのです。
 池田 よく「長老」とか「大御所」といわれる年配の方々が、いざというときに、急所をついた、値千金の決断をくだす場合がありますね。
 その特質が、医学的にも証明されたわけですか。
 屋嘉比 そう思います。
 デンバー大学のホーンという博士も、独自の研究から、同じ意見を述べています。
 池田 とくに、高齢になっても、社会のなかで、積極的かつ創造的な仕事をしている人に、そうした傾向が多くみられるようですが。
 屋嘉比 アメリカには、その半生を、人間の頭脳の老化という問題にかけてきた、老人医学の権威、シェイ博士がおります。その博士が、「一部の精神能力は、六十歳代で衰えをみせ、多くの人は八十歳代までに衰える。だが、社会生活に参加している老人の場合は、精神能力は変わらないばかりか、進歩する場合もある」と、ハッキリ言っております。
 またエックルス博士やベーカーマン博士も、同じ見解を発表しています。
 池田 すると、私どもがいつも言っている「生涯青春」ということが、医学的にも証明されたわけですね。(笑い)
 ともかく“老い”とは、人生の完結といえるかもしれない。ゆえに、人生は最後の一瞬まで、創造と建設の連続でありたいものだ。この心構えを、生涯もちつづけたかどうかが、その人の人生の価値を、決定していくともいえるのではないでしょうか。
 屋嘉比 そうでしょうね。シェイ博士も、「自分の生活に閉じこもる老人は、確実に衰える」と言っておりますから。
 またカリフォルニア大学のダイアモンド博士も「脳細胞の減少は、青年時代のほうが最大で、その後はあまり顕著でない」とも主張しております。
2  年齢では決まらない人生の価値
 ── ところで屋嘉比さん、「高齢」とは、何歳ぐらいをさすのですか。
 屋嘉比 ふつう七十歳から八十歳ぐらいです。最近は、その年齢に達する人が増えているわけです。
 池田 どのくらい増えているのですか。
 屋嘉比 昭和五十五年の国勢調査では、高齢者の比率は、一千人のなかで、約四十三人となっています。これは、前回調査の昭和五十年から、約八十万人増加しています。
 池田 それ以上の年齢の場合は、どうですか。
 屋嘉比 たとえばいま、八十五歳まで生きている人は、一千人のなかで、五人ぐらいのようです。
 池田 男女の比率は、どうですか。
 屋嘉比 男性が一人とすれば、女性はほぼ二人の割合です。
 ── 私は、男だからいうわけではありませんが(笑い)、長生きするにしても、できるだけ、病気やなんかで人に迷惑をかけないように、生きたいと思うのですが。(笑い)
 池田 男性は短命、女性は長命というのは別として(笑い)、その人の人生の価値は、年齢だけですべてが決まるとはいえないと、私は思っている。どうでしょうか。そこに、人生のひとつのむずかしさがあるのでしょうね。
 よく戸田前会長も言っておられた。
 「人間は使命があれば死なないし、使命が終われば死ぬ」と……。
 ── 人生の真髄を、簡潔に言われておりますね。
 ところで池田先生、いちばん長生きできる職業は、何でしょうか。
 池田 それは屋嘉比さんの分野です。(笑い)
 統計的なものはわかりませんが、著名な人では、ピカソ(九十一歳)やルノワール(七十八歳)をはじめ、画家は、長寿が多いようですね。
 ── 政治家なんかも長生きしていますね。ジャーナリストは、短命のようです。(笑い)
 池田 職業柄、お医者さんは、長生きの人が多いのでしょう。(笑い)
 屋嘉比 いや、「医者の不養生」というくらいですから。(笑い)
 ちょっと、世に天才といわれる人の「寿命」を調べてみたのですが。
 科学者ニュートン 八十四歳
 作家ビクトル・ユゴー 八十三歳
 教育者ペスタロッチ 八十一歳
 科学者ダーウィン 七十三歳
 詩人ウィリアム・ブレイク 七十歳
 画家レオナルド・ダ・ヴィンチ 六十七歳
 哲学者ヘーゲル 六十一歳
 音楽家ベートーヴェン 五十七歳
 詩人ダンテ、社会学者マックス・ウェーバーが五十六歳、作曲家チャイコフスキーは五十三歳、というんですが……。
 池田 短命の場合はどうですか。
 屋嘉比 それもいくつか、調べてみました。
 モーパッサンは四十三歳、精神病で亡くなっています。ショパンが結核で三十九歳、バイロンが三十六歳、モーツァルトが三十五歳、ともに肺炎などが原因になっています。
 池田 「死因」については、なにかデータのようなものがありましたか。
 屋嘉比 いわゆる職業病は別として、ハッキリ出ているものが少ないのです。
 ただ、日本で職業別に調査したものがありました。それでは、
 「指導者は、脳卒中、ガン、心臓病」
 「学者は、ガン、伝染病」
 「芸術家は、結核」
 となっています。
 ── 欧米では、比較的、指導者に、精神病の割合が多いらしいですね。
 池田 そうですかね。やはり生活環境は、死因にも関係してくるのでしょうかね。
 屋嘉比 それについては、第二次世界大戦にかかわった指導者の死因について、調べた本がありました。
 ルーズベルトは「脳血管障害発作」
 ウィルソンは「脳卒中」
 ヒトラーは「パーキンソン病、自殺」
 ムッソリーニは「神経梅毒、銃殺」
 フランコは「動脈硬化症」
 レーニンは「脳軟化症」
 毛沢東は「脳軟化症」
 と、なっています。
 ── やはり、政治家や指導者は、脳とか心臓に関係した病気が多いのでしょうかね。
3  大聖人の御入滅は六十一歳
 屋嘉比 仏病理法の歴史のうえではどうでしょうか。
 日蓮大聖人は、おいくつでお亡くなりになったのでしょうか。
 池田 六十一歳です。老衰であったと伝えられています。
 屋嘉比 ああ、そうですか。当時としては、六十一歳は御長命だったと思いますね。
 池田 ともかく、大聖人は想像を絶する「大難四度」であられた。また、数知れない苦難の連続の御生涯であられた。
 屋嘉比 たいへんだったでしょうね。
 池田 ですから、「人生」何歳ということは、決して、いちがいにいうことはできないと思いますが、私の寿命観は、ひとつの基準として、大聖人が「六十一歳」で御入滅なされている、この「六十一歳」というものを、一つでも、二つでも、超えて生きぬくことができれば、ありがたいことではないか、と思っております。
 屋嘉比 深い基準をもっておられますね。
 池田 また、大聖人は、御入滅の一年前にすでに、「今年は正月より其の気分出来して既に一期をわりになりぬべし、其の上齢既に六十にみちぬ、たとひ十に一・今年はすぎ候とも一二をばいかでか・すぎ候べき」と、御自身の寿命があと一、二年であることも、おっしゃっておられるのです。
 もちろん、その後も弟子、信徒に、数々のお手紙をあたえられたり、また重要な「法門書」も、お残しになっておられます。
 屋嘉比 なるほど。なるほど。
 池田 像法時代の中国の天台大師は、六十歳(数え)で亡くなっています。
 日蓮大聖人は、この天台大師の臨終の姿について、「天台大師御臨終の記に云く色白し」と、したためられております。
 屋嘉比 「色白し」というのは、これまた「天寿」をまっとうした姿なんでしょうか。
 池田 そうですね。この天台大師についても、仏法でいう「成仏」の姿で亡くなった、と記した古文書が約三十種類残っております。
 そこで、仏法では、「また天台は六十歳御入滅、蓮祖は六十一歳御入滅なり。これ則ち像末の教主の序、豈不思議に非ずや」(「観心本尊抄文段」日寛上人文段集四五一㌻)と、説かれております。
 つまり、中国の天台大師は六十歳、日蓮大聖人は六十一歳であられる。像法時代の教主と末法の御本仏の御入滅には、不思議の義があるとおっしゃっておられるわけです。
 このことについては、三つの深い意義があると、説かれておりますが、今回は、少々むずかしくなりますので、略させていただきます。
 屋嘉比 そうしますと、日本の伝教大師の場合は、おいくつだったのでしょうか。
 池田 五十六歳です。『伝教大師の一期略記』という古文書には、やはりみずからの臨終を予言した、ということが記されております。
 また、弟子への遺言を残し、これまた安祥として入滅したことが、記されております。
 屋嘉比 いまは、死因となる病気の解明が進んでいることもありますが、統計的にみても、老衰という病名で亡くなるというのは、たいへん少なくなっているんです。医者の立場からは、老衰で亡くなるのが理想と思われますが。
 池田 いや、それについては法華経の「序品」にあるんです。
 「仏此の夜滅度したもうこと 薪尽きて火の滅するが如し」と、仏の涅槃の姿について説かれているんです。「薪尽きて火の滅するが如し」──これが万人の願いでしょう。

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