Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

文学随想小説「芙蓉の人」を語る  

2008.8.23 スピーチ(聖教新聞2008年上)

前後
10  自分らしく朗らかに
 小説『芙蓉の人』では、零下20度以下にもなる富士山頂での極限状態での戦いが、迫真の筆致で描かれている。
 ──過酷な環境下で重い高山病などのため、心身ともに弱り果てた野中到は、栄養をとるのに不可欠な食べ物さえも、あまり口にしなくなっていった。
 思い詰めた到は、千代子に言う。
 「もはやおれは死を待つしか能のない身体になった。もし、おれが息を引き取ったら、その水桶に入れて、器械室へころがして行って、春になるまで置いてくれ」
 千代子は、毅然と言った。
 「私の野中到は死んだらなどという弱気を吐く男ではなかったわ」
 「そんなことを云うだけの力があったら、粥のいっぱいも余計に食べたらどうなんです。薬でも飲むつもりで食べたら、力が出て来て、病気なんかふっとんでしまいますわ」
 そして、涙ながらに、夫を励ました。
 「耐えるのよ、頑張るんだわ。私たちにとって、いまが一番苦しい時なのよ。私だってもうだめかと思っていたのが、急に快くなったでしょう」
 今も富士山頂にこだまするかのような、必死の女性の叫びである。
 人生には、幾多の試練がある。言語に絶する苦難を前に、「もうだめだ」と思う時もあるかもしれない。
 しかし、何があろうとも、決してあきらめてはいけない。希望を捨ててはいけない。
 どんな戦いにおいても、まずは自分が負けないことだ。まずは自分が真剣になることだ。そこから、一切の道が開かれる。
 「芙蓉の峯」──あの富士の山頂を心に仰ぎながら、きょうも、自分らしく、明るく朗らかに、前進の一歩を踏み出していくことだ。
11  終わりに、蓮祖大聖人が、乙御前の母(日妙聖人)に贈られた御聖訓を拝したい。
 「あなたの前々からの信心のお志の深さについては、言い尽くせません。しかし、それよりもなおいっそう、強盛に信心をしていきなさい。その時は、いよいよ、(諸天善神である)十羅刹女の守りも強くなると思いなさい。その例は、他から引くには及びません。
 日蓮を日本国の上一人より下万民に至るまで、一人の例外もなく害しようとしましたが、今までこうして無事に生きてくることができました。
 これは、日蓮は一人であっても、法華経を信ずる心の強いゆえであったと思いなさい」(御書1220㌻、通解)
 数々の大難を厳然と勝ち越えてこられた、大聖人の絶対の御確信である。
 模範とすべきは、師匠の戦いである。
 「師匠のごとく!」「師匠とともに!」──この一点に徹し、強盛な信心を奮い起こして進む時、諸天は必ず動き、我らを護る。
 全同志のご健康とご長寿を、妻と共に祈り、一人ももれなく幸福者に、勝利者にと心から念願し、私の文学随想を結ばせていただきたい。

1
10