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日蓮大聖人・池田大作

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教育の使命  

「美しき獅子の魂」アクシニア・D・ジュロヴァ(池田大作全集第109巻)

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12  池田 東洋の古典の『論語』に、次のような一節があります。「子の曰わく、故きを温めて新しきを知る、以て師と為るべし」(「為政」金谷治訳注、岩波文庫)と。子とは儒教の祖である孔子です。その孔子が言うには、過去の歴史や古典、哲学、文化に習熟していく、その上で現代の出来事を知っていく、このような人物にして、師匠となることができるというのです。
 博士の主張と、まったく同じですね。過去の伝統に学ぶことなく、現代の情報のみにふりまわされていては、現在の出来事の真実を見抜くこともできず、したがって、未来創造の知恵もわいてこないでしょう。
 ジュロヴァ インターネットは、確かに便利で有効なものではありますが、同時に非常に危険なものでもあります。なぜかと言うと、ある一定の時間以降の情報しか入っていないからです。私たちが生まれる前の歴史は、どこに行ってしまったのでしょうか。しかも、情報に一つでも間違いがあれば、それは何千倍、何億倍にも拡大してしまいます。
 池田 そのとおりです。歴史と伝統の喪失に関して、私は、本年(一九九九年)の一・二六「SGIの日」記念提言で、“アイデンティティー・クライシス”として論じました。
 その中で、ヨースタイン・ゴルデルの『ソフィーの世界』(須田朗監修、池田香代子訳、日本放送出版協会)から、「あなたはだれ?世界はどこからきた?」という“自分探し”のキャッチ・コピーを紹介しました。また、リチャード・バックの『僕たちの冒険』(北代晋一訳、TBSブリタニカ)からは、「私はどこから来て、どこへ行くのか。そして、なぜここにいるのか」との問いを取り上げました。
 現代人は、世界の諸民族が豊かにつちかってきた文化に内包された、「コスモロジー(世界観)」を喪失しております。博士の指摘される民族の起源と伝統、そこで育まれた「コスモロジー」に基づく「人生観」を失っているがゆえに、「どうして今ここにいるのか」にとまどい、魂の病としての「アイデンティティー・クライシス」におちいっているのです。
 私は、この提言において、それぞれの民族的伝統のなかから知恵をくみ取り、それぞれの「コスモロジー」を再興する必要性を訴えました。「コスモロジー」に基礎を置く「ヒューマニズム」――そこに、現代における「人間革命」が可能になるのです。
 ジュロヴァ 「人間革命」は、インターネットを通して行われるのでしょうか。そうではありませんね。コンピューターは、「人間革命」を手助けすることはできますが、それをなしとげることはないのです。
13  池田 コンピューターに対する認識の仕方が、今日の情報化社会の“ポイント”です。
 ジュロヴァ 現在、あらゆる領域で、アンバランスな状態が見られると思います。教育の分野で言えば、百科事典的、基礎的な知識を元にして、それを用いる力をどのように養っていくかが、大事になると思います。「教育の未来」を一言で言うとすれば、「知識」と「能力」のバランスであると思います。バランスがとれれば、自己完成のために自分が何ができるかということを、自分で選択することができます。
 池田 私は、「知識」を活用する能力、つまり、「知恵」の源泉となるものこそ、人間の目的観や価値観であり、これらを育む「人間教育」に、今一度、焦点を当てるべきだと思っています。最近、日本のある国立大学で、「教育学部」を「教育人間科学部」に改組した例もあります。
 ジュロヴァ ソフィア大学では、つねに基本的な主題についての人文科学が優勢でした。一九八九年以前も、また現在も、ブルガリアでは先進的な科学技術が不足していることが痛感されてきました。そのために、科学技術の成果に対する関心が非常に大きいのです。しかし私は、間もなく、この要求が十分に満足させられることを期待しております。
 池田 私も、貴国における科学技術教育の充実を希望しております。これまで、さまざまな苦難を乗り越えて、新しい文化を形成してきた貴国だからこそ、「科学技術」と「精神性」のバランスをとり、科学技術を活用していける人材を数多く輩出されることを念願しております。
 ジュロヴァ 現在、暴力や欲望がはびこっている社会のなかで、教育システムの主な目的は、人間、文化、精神を創造することです。適切な教育システムを
 展開していくのは、きわめてむずかしいことですが、東欧には周期的に非常に困難な時期があり、その時期にこそ、みずからの精神と歴史を、さらにいっそう深く強靭なものとしてきた経験があります。ゆえに、私は今、伝統文化や経験と、未来世界が提供するものとの間で、正しい選択がなされるにちがいない、と期待しているのです。

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