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日蓮大聖人・池田大作

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第十章 世界市民の要件――「共同体」と…  

「21世紀への選択」マジッド・テヘラニアン(池田大作全集第108巻)

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12  地球化時代に対応し新しい世代を育成
 池田 ところで博士は、こうした「開かれた心」をもった世界市民を育てるために、国連大学が提唱している「グローバルラーニング(地球的学習)」の必要性を強調されていますね。
 テヘラニアン そのとおりです。「グローバルラーニング」とは、世界が「地球村」となってしまったこの時代に、それに適応した地球規模の視野が求められているということを示唆するために、国連大学が用いている概念です。私の良き友人でもあった故エディプロマンが国連大学副学長だったときに、そのプログラムが始まったのです。
 国籍や人種、年齢に関係なく、すべての人々が取り組むべきものと言えるでしょう。
 人々は、グローバル化の進む世界に住んでいるにもかかわらず、その受ける教育はおおかたのところ国家によって形成され、その領土と文化の域内で管理されています。ですから、眼前に急速に展開しつつある世界の現状に対して、多くの人々が十分な対処ができる用意ができていないのです。
 政治家たちは今なお、国家の安全保障についても核保有政策に象徴される時代遅れの観念にもとづいて行動しています。核兵器が使用された場合、そのあたえる影響が国境を選ばないにもかかわらず、です。
 また教育者たちも、世界を「我ら」対「彼ら」に分断する偏狭な愛国心を青年たちに教えこみたがります。そして、大半のジャーナリストたちは、自分たちと異なる世界を「怪奇な」「野蛮な」「非文明的な」ところだとして画一化する一方で、視聴率や購読率が得られる国外の出来事しか伝えないのです。
 池田 世界はグローバル化しているのに、人々に影響をもたらす国内の政治や教育、マスコミの意識がグローバル化していない――このギャップこそが問題ということですね。
 テヘラニアン ええ。そこで、地球化時代に対応していくもっとも有効な方法は、若い人たちに注目することだと私は考えます。
 「古い文化の形態が死にゆく時、新しい文化を創造するのは、不確かであることを恐れない一握りの人々である」と、ルドルフバーロは言いました。
 私なりに表現すれば、“信じ、疑い、そして学ぶことを恐れない人々が、新しい時代を開くことができる”と言えましょう。これらの要素はすべて、青年たちが持っている特質とも言えるのではないでしょうか。
 ですからグローバルな視野に立った「教育」で、人種や肌の色、信条とは関係なく、すべての生命、人間のすべての尊厳性を深く尊重する新しい世代を育てることが重要となってくるでしょう。
 私の経験からも、それは断言できます。
 池田 具体的に、どのような経験をされたのですか。
 テヘラニアン 一九五五年、私が高校生のころでした。「ニューヨークヘラルドトリビューン」紙が主催する公開討論会「青年の広場」に出席できることになったのです。
 それは、小論文のコンテストによって選ばれた高校生が、世界三十五カ国から参加して行われたフォーラムでした。
 そのとき、参加者全員がアメリカの有志の方々の家にホームステイしながら、同年齢の若者たちのいる高校を訪れ、自国の事情や文化について話すために約三カ月間、アメリカに滞在したのです。
 その間、国連やその他の所で催される会議に参加し、世界の問題や平和への展望を討論しあいました。
 その体験は、私の心に忘れがたい刻印を残し、以来、私は「世界市民」の道を歩むことになったのです。
 この短期間のうちに、ユダヤ教、プロテスタント、カトリック、黒人といったさまざまなアメリカ人の家族と暮らしながら、各地の高校に通い、アメリカ文化の速習コースを受講したわけです。それと同時に、インド人対パキスタン人、アラブ人対イスラエル人、南アフリカ人対黒人の紛争についても、直接的な教育を受けたような感じがします。
13  次代担う青年に「平和教育」を
 池田 それは、じつに得がたい経験でしたね。若いころに、さまざまな人に直接ふれ話しあうことは視野を大きく広げるものです。
 その意味からも、次代を担う青年が、世界に開かれた心をもって、平和建設に挺身する勇気と知性をやしなっていける環境づくりをさらに進めることが重要ですね。SGIが世界各国の青年の支援を進めているのも、この意図からです。
 平和学者のガルトゥング博士も、「平和への献身的情熱」と「平和のための知性」の両方を兼ね備えた人材の重要性を訴えておられました。
 博士には、「人類の平和を守るフォートレス(要塞)たれ」を建学の精神に掲げる創価大学で、平和構築に貢献できる人材専門家を養成したいとの、私の願いを快く受け入れてくださり、短期間ではありますが、特別講義を行っていただいたことがあります。
 「ピースリサーチャー(平和のための研究者)ではなく、ピースワーカー(平和のための行動者)に育て」との博士の思いが、講義から伝わってきたと学生たちが感動の面持ちで語っていました。
 テヘラニアン 崇高な理念を掲げる創価大学から、陸続と「ピースワーカー」が育っていくことを私も念願しています。
 戸田平和研究所においても、将来的には次代を担う青年たちを対象にした「平和教育」に力を入れていきたいと考えています。
 私は、これを「青年のためのグローバルラーニングとリーダーシップフォーラム」と名づけていますが、私が若いときに経験したような形で世界各地から青年たちを募り、交流や意見交換を幅広く行うことのできるフォーラムを定期的に開催できれば、と考えています。
 また、できるだけ多くの世界の青年たちに意見の発表の場を提供するために、毎年、場所を変えて開催することも有益かと考えます。
 池田 ガルトゥング博士も、「現在、平和学は、これまでの知識構築という焦点(平和研究)から技術面の焦点(平和訓練)へと進展しつつある」との見通しを語っておられました。
 その意味で、戸田平和研究所が、世界の青年たちのために「平和教育」を推進することの意義は大きいと思います。
 青年こそ、未来の希望であり、未来を開く力です。だからこそ私も、その育成に最大の力をそそいできました。
 青年たちが世界の人々とふれあい、対話を重ね、社会のために行動することによって自身を鍛えていく。そして、自分だけでなく一人でも多くの人の心に「平和の炎」を灯し、燃えあがらせていくことが人類を混迷の闇から救いだす「希望の光明」になっていくと、私は確信しています。

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