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日蓮大聖人・池田大作

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第八章 精神の「内発性」――人類を照ら…  

「21世紀への選択」マジッド・テヘラニアン(池田大作全集第108巻)

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6  大いなるコスモス――「共生」の秩序感覚
 池田 そうした時代の志向性については、私も一九九四年に行ったモスクワ大学での講演(「人間―大いなるコスモス」がテーマ。本全集第2巻収録)で大要、次のように論じました。
 ――『法華経』では譬喩をもって、それぞれの“衣服の裏”に、等しく同じ宝を、すなわち「仏性」という尊厳な「普遍の生命」を見いだすことを説いている。
 そうした認識を通じて、異なる文化や民族、文明に属するあらゆる人々が、宇宙的な自己認識に到達していく。そこで浮かびあがってくる「普遍性」とは、人間と自然と宇宙が共存し、小宇宙(ミクロコスモス)と大宇宙(マクロコスモス)が一個の生命体として融合しゆく「共生」の秩序感覚であり、そうしたみずみずしい「普遍性」を生命に充溢させていくならば、たとえ属する集団が異なったとしても、対話も相互理解もつねに可能である――と、訴えたのです。
 テヘラニアン まことに示唆深い哲学ですね。
 現代においても、人々の精神的希求に呼応するかのように、新しい“神話”が登場しつつあります。
 いわゆるユダヤ教のいう「選民」や、もともとはアメリカの領土拡張を正当化した「自明な運命」、あるいはキップリングの詩の題名に由来する「(有色人の未開発国を指導すべき)白人の責務」といった古い神話に代わる、新しい神話が登場してきているのです。
 なかでも、地球を一個の生命体とする「ガイア」神話は、母なる地球を守る共同の努力に諸民族、諸部族を連帯させうる強力な普遍的神話であると言えるでしょう。こうした創建神話は、たがいの差異を超えて、すべての文明の基盤を形成するものです。
 それに対して、特定の人種や民族の優越性を奉じる信仰は、帝国主義を台頭させ、しばしば戦争を引き起こし、破壊をもたらしてきたのです。
 池田 今日、世界各地で頻発している民族問題も、そうした閉鎖性が根底に横たわっていると私も思います。
 先のモスクワ大学での講演でも言及したのですが、トルストイの『アンナカレーニナ』の中に、こんなくだりがあります。
 セルビア戦争にさいして燃えあがった、自己犠牲をも辞さない民族的熱狂に水をさすように、登場人物レーヴィンは、こう言います。「しかし、単に犠牲になるだけでなく、トルコ人を殺すんじゃありませんか」(中村白葉訳、『トルストイ全集』8、河出書房新社)と。
 この短いセリフに端的に示されているように、民族的熱狂のような狂気には、他集団に対して非人間的な行為を平然と行ってしまう“魔性”がひそんでいると言えましょう。
 またレーヴィンは「神性の現れ」を自分のうちに感じながら、こう自問します。“ほかのユダヤ教徒や、イスラム教徒や、儒教の徒や、仏教徒――彼らは、この最善の幸福を奪われているのだろうか?”と。レーヴィンが感じたものは、まぎれもなく内発的な啓示でありました。そこで、彼は考えたのです。こうした幸福はキリスト教徒にかぎられているのか、異教徒はどうなるのか、と。
 トルストイが提起する、このレーヴィン的懐疑こそ、自己の内面を見つめ直し、普遍性のなかで、新たな自分を創りあげていこうとする内発的な力であると、私は考えるのです。
7  歴史の転倒正す「人間革命」運動
 テヘラニアン そこに、宗教的ドグマ(教条主義)を乗り越えるカギがありますね。
 ドグマに呪縛された宗教は、歴史上、数えきれない悲劇を人間にもたらしてきました。
 池田 「内発性」――それは古来、人格的な価値の枢軸をなし、対話の要件ともいうべき、謙虚さ、寛容性を生みだす母胎となってきたと言ってよい。
 この「内発性」をおろそかにしたがゆえに、宗教史において独善や傲慢が横行し、“宗教のため”に人間が傷つけあい、殺しあうという転倒が繰り返されてきたと言えるのではないでしょうか。
 “宗教のため”ではない、いっさいの根本は“人間のため”という一点にある――私たちSGIがめざす「人間革命」運動は、こうした歴史の転倒を正し、ともに光り輝く地球文明を創出するための方途として、一人一人の人間生命の次元からの変革を第一義として掲げているのです。
 テヘラニアン すばらしいことです。
 戦争や無知、そして不正に対抗して世界を一体化させ、人々を結びつけるために、科学的証拠にもとづく「ガイア」神話のような基軸的原理を皆が心にいだくべきときが、到来していると私は思います。
 “宇宙船地球号”を文明間の平和、友好、超越をめざす私たちの共同の旅の乗り物と見なす「地球文明」は、会長が主張されるように、まさに一人一人の「人間革命」を基軸として創造されなくてはならないのです。

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