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日蓮大聖人・池田大作

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4 エイズ――その脅威と対処  

「健康と人生」ルネ・シマー/ギー・ブルジョ(池田大作全集第107巻)

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3  「エイズ教育」が感染拡大の歯止め
 池田 一九九五年には、アメリカにおけるエイズウイルスの感染者は、百万人に達したという報告があります。またアフリカ、東南アジアにおいても、感染者は現在、爆発的に増大しております。
 二十一世紀には、HIV感染者は四千万人に達するとの予測もありますが。
 シマー HIV感染やエイズが“爆発的”に増大しているとされるのは、感染者や患者の数が幾何級数的にふえており、しかも公表された段階ではすでにその数字をはるかに上回っているほど、その勢いはとどまるところを知らないからです。
 われわれの調査したところでは、二〇〇〇年には、約三千八百万人がエイズウイルスに感染するのではないかとの予測が出ています。しかし、これはどちらかと言えば、低めの予測で、実際には、約一億一千万人が感染するという予測を出している研究グループもあります。
 池田 恐るべき数字です。こうしたエイズ感染の拡大は今後、さらに進んでいくと思われますか。
 シマー HIV感染とエイズの症状がこの十年間、世界的な規模に達したことは事実です。はたして、この感染とその後に生じる症状が急速にコントロールされて収斂されるのかどうかは、HIVが目下、伝染的に広がっている情勢なので、予測は困難であると言わざるをえません。
 池田 それでは、いったい、どのようにすれば、このようなエイズの拡大を食い止められるのでしょうか。
 シマー エイズウイルスの感染力は、決して強くはありません。感染に対する予防を行うことで、エイズの拡大を最小限に食い止めることは可能です。
 池田 予防こそが対策の“要”ですね。
 シマー 疫学上のデータによりますと、一般的な生活をしている人に比べて、ライフスタイルや医療環境が理由で、感染リスクの高い人たちが存在します。
 現時点では、同性愛者と両性愛者、麻薬常用者、多数の性交相手をもつ人、また感染が一般的に広まっていると考えられる国で生まれ、あるいは生活している人、上述の危険性をもつ人たちを性交の相手としている人、そして忘れてはならないのが感染した母親から生まれた子ども――がそのグループに入ります。
 池田 麻薬常用者というのは、汚染された注射器による感染の例ですね。実際の医療においても、極度の貧困のために、一本の注射器を続けて使わざるをえない地域でエイズが流行しているケースがニュースで報道されており、私も心を痛めました。
 シマー これらのグループに属する人々への予防、また「エイズ教育」を行うことが、エイズ拡大を食い止めるうえで大切になってきます。
4  治療法の問題点は何か
 池田 よくわかりました。次に、治療法に話を進めたいと思います。
 シマー 症状の進行に応じて、二種類の治療法が用いられています。
 一つはウイルスや、ウイルスに感染した細胞に対する直接的な治療です。これはウイルスの増殖を阻止し、結果的に免疫系の本来の活性を取り戻すことを目的としています。
 もう一つは、免疫機能の低下によって発生した疾患に対する治療です。主として“日和見”感染やガンに対して用いられるものです。
 池田 今後、エイズへの効果的な薬の開発を期待してもよいですか。
 シマー 細菌の感染を退治するための抗生物質その他の薬品は、相当数利用できるようになってきています。しかし、ウイルスの増殖を抑える薬品は、まだ一般的にそれほど出回っているとは言えないことを、心にとめておかなくてはなりません。
 ウイルスは細胞内に寄生し、その細胞の代謝に依存して増殖する寄生虫のようなものですから、ウイルスの増殖を阻止する一番の方法は、宿主である細胞の死を早めるようにすることです。しかし、それでは、治療の本来の目的から外れていることは明らかです。
 ウイルス病の治療法には、ウイルスが体内で増殖するいくつかの過程を攻撃目標とする方法があります。これまでのところ、より効果的と考えられているのはウイルス増殖の原因である「逆転写酵素」の活性を抑制する方法です。
 池田 日本でも最近、AZT(アジドチミジン)という薬が注目されていますが……。
 シマー AZTというのは、抗ウイルス剤です。これがウイルス増殖をかなり遅らせ、したがって想定された病気の発症時期をも遅らせる能力をもつことが明らかになっています。しかし残念なことに、一年間ほど投与し続けると、その効果は低下することが報告されています。
 また、長期間の服用によって、吐き気、頭痛、めまい、白血球減少などの副作用が生じることも報告されており、医師は患者へのAZTの効果を慎重に観察する必要があります。そのため、患者はひんぱんに医師を訪問することになります。
 一方、ウイルスが増殖するために必要な蛋白の抑制剤が開発中で、臨床試験によれば、その将来性に希望がもてそうです。
 池田 エイズを予防する目的として、ワクチンの開発も試みられているようですが。
 シマー ワクチンの開発ですが、このウイルスは性質、習性がきわめて特異で、その対応に苦慮しているのが現状です。
 池田 エイズウイルスの“特異性”を、わかりやすく解説していただけませんか。むずかしいとは思いますが。(笑い)
 シマー 形や働きの変化が少ないウイルスほど、ワクチンの効き目は高まりますが、エイズウイルスの場合は、そのワクチンの攻撃の目標となるウイルスの外膜の構造が変化しやすく、しかも患者によって違います。ということは、ワクチンをある一定のエイズウイルスの構造を標的にするように改良しても、効き目があるのはエイズウイルスが変化するまでで、すぐに効き目を失ってしまうのです。
 池田 それがエイズワクチンの開発の障害になっているのですね。よくわかりました。
 シマー 一方、エイズウイルスはプロウイルスという形で、侵入した細胞の核内に潜伏し続ける能力をもっています。もっと具体的に言うと、T細胞またはマクロファージ(大食細胞)の中に文字どおり隠れてしまいます。増殖を休止したこのようなウイルスの所在をつきとめて細胞内からウイルスを追いだすことは容易ではありません。しかしながら、この分野での研究はきわめて活発で、とくに遺伝子工学を通じてワクチンを製造する方向に進んでいます。
 しかし、エイズワクチンの開発は困難で、長い時間を必要とすることは疑いありません。
 また、最近は、カクテル療法など新しい治療法の開発が行われています。今後の治療技術の進展を期待します。

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