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日蓮大聖人・池田大作

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“文化的”危機  

「21世紀への警鐘」アウレリオ・ペッチェイ(池田大作全集第4巻)

前後
3  われわれが格闘している危機は、このように、自分自身の危機であり、目標の危機でもあるのです。この危機は、われわれ自身の内面で育ったものであり、思考や行動を不明瞭で不満足なものにする深刻な矛盾の、原因とも結果ともなっています。この危機は、かたやわれわれがせっせと生み出している新たな現実と、他方それらが生まれた原因への理解や、それらと共存するための人間の能力が、不釣り合いであることを強く示しています。こうしてわれわれは、自らの自由裁量によって最新の手段を用いながら未来へと突進しているわけですが、これに対して思考や感情、政府や制度は、もはや存在しない過去に縛りつけられたままになっているのです。一方には最新の科学技術があり、もう一方には哲学上・行動上の衰退がみられるというこうした分離現象が危機を生み出し、今日なおこの危機を永続化しようとする諸要因にますます勢いをつけているのです。
 この点については、のちにもう一度述べたいと思います。いま非常に大事なことは、現代の苦境は本質的には文化的なものであって、生物学的なものではないということ、そしてその苦境は何に起因しているかといえば、われわれが世界中でひきおこしている抜本的で急激な変化と、その変化に適応する必要がありながらいまだ十分に適応できずにいることの意味についての理解それ自体に、内面の不均衡や時間的なずれがあるためだという知識をもつことです。この機能不全の悪循環は、極度に警戒を要するものではあっても、決して逆転不可能なものではありません。矯正も逆転もできるのです。
4  したがって、われわれは断念すべきではありません。われわれの状態は、決して絶望的ではないからです。後述するように、人間は一人ひとりの中に理解力、想像力、独創力を豊富に蓄えており、そのうえまだ活用されていない、いや顧みられてすらいない道徳的資質を、豊かに備えています。これらの蓄えは未開発の潜在力そのものであり、したがって、人間が自身と環境とに加えた損害を補修するために、そしてこの両者間の失われた均衡を取り戻すために、これらの蓄えは系統的に開発することができますし、またそうしなければならないものなのです。そうすることによって初めて、人類はついには現状を逆転することができるでしょう。このことを認識し、それに従って行動することこそが現代の最重要課題でもあり、また本書の対話における中心的な訴えでもあるのです。
 われわれが文化的な均衡を取り戻し、自らの思考にわずかなりとも正常さを回復させるための最も平明で容易な方法は、人間と自然の関係にかかわる単純な基本的真理についての意識を高めることです。もし、生命の倫理という枢要な分野に確固とした文化上・行動上の基礎が確立されれば、それだけでも、現在の人類の暗愚で無関心な状態をはるかに越える大きな前進となり、その結果、他の分野で成果を上げることも、より容易になるでしょう。そうなれば、徐々に連鎖反応が広がり、やがてはより成長した態度と、より責任感のある社会の進展を招くことでしょう。したがって、この話題にもう少し深く立ち入ることは、たとえそれが重複的であるとしても、それだけの価値のあることでしょう。

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