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日蓮大聖人・池田大作

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第七章 アインシュタインを超…  

「科学と宗教」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

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3  大きな重力は「空間」を曲げる
 ログノフ ポアンカレが、おもしろい“思考実験”をとりあげています。
 ある人が一晩眠っている間に、宇宙のすべてのものが一千倍大きくなったとします。本人はもちろんのこと、ベッドやテーブルも、まわりの建物も、そして地球や太陽、星など、あらゆるものが同じように大きくなったとする。
 ―― “科学版・ガリバーの冒険”といったところですね。
 ログノフ その人が目覚めたときに、何か変化があったとわかるか。本人自身が大きくなったことを証明することができるか――。ポアンカレの答えは「ノー」でした。
 池田 大きさとか長さというのは、何かと何かを比較して、初めて意味をもつものだということですね。この世界と関係のない、絶対的な“物差し”など存在しない……。
 ログノフ そうです。絶対的な“物差し”がないならば、どうすればこの宇宙の大きさを測ることができるのか――このことを真剣に考えたのが、ポアンカレたち二十世紀初めの数学者です。この世界を測る“物差し”はどこにあるか、それはどうすれば作ることができるかを考えぬいたのです。“物差し”のことを“ゲージ”と言いますが、アインシュタインの「相対性理論」は、この「ゲージ理論」の典型です。
 ―― なるほど。
 ログノフ 宇宙を超越的なただ一つの“物差し”で測っても何の意味もないが、二つの“物差し”のあいだの歪みは現実に意味をもち、測ることができます。その理解のうえにアインシュタインは、“物差し”のあいだの歪みが、物質やエネルギーの有り様から、逆に決まることを見つけたわけです。この“物差し”のあいだの歪みは、たとえば、光線の曲がりとして観測できます。光は巨大な重力場の中で曲がるのです。
 池田 太陽の周囲でも、光は曲がりますね。
 ログノフ 太陽の表面ですと、地球の約二十七倍もの重力がありますので、光の曲がりを観測することができます。角度でいいますと、わずか一度から二度のことですが……。
 池田 第一次大戦の直後(一九一九年)、イギリスの天文学者エディントンらが、皆既日食のさいに観測したのは有名です。
 ログノフ どのように行ったのかというと、皆既日食で太陽が月に隠れたときに、その後方にある星の位置を測定するのです。すると、実際にその星があるはずの位置よりも角度でいうと、一・六二秒(一秒=三六〇〇分の一度)から一・九五秒ほどずれて見える。それによって、その星の光が太陽の側を通過するとき、太陽の重力で曲げられているということが証明されたのです。アインシュタインは一・七秒と予言していました。
 池田 なぜ重力によって、光が曲がるのでしょうか。
 ログノフ 「一般相対性理論」によると、重力というのは個々の物体に働く「力」ではありません。つまり、引っ張っているわけではないんです。重力が“空間それ自体”を変化させてしまうのです。
 池田 空間が曲がっているため、光が曲がる――そう理解してよろしいのですね。
 ログノフ そうです。四次元の時空から見れば、光は最短距離をとっているにすぎません。それが歪んだ三次元空間においては、光の曲がりとして観測できるのです。
4  「時間」の進み方が遅くなる理由
 池田 「相対性理論」では、時間はどうなりますか。
 ログノフ 「相対性理論」の本質は、空間と時間の一体性にあります。ですから、空間が歪んでいれば、おのずと時間も歪んできます。端的にいえば、時間の進み方が「重力場」の影響で、速くなったり遅くなったりするのです。
 池田 たとえば、太陽の近くに置いた時計は、巨大な重力場の影響で、地球上の時計よりも遅れていくそうですが。
 ログノフ 理論的には、太陽での一秒は、地球上の一・〇〇〇〇〇二秒にあたります。ですから、六日経つと、太陽の時計は地球の時計より一秒ほど遅れる計算になります。
 ―― 実験的にも証明されていますか。
 ログノフ 原子の振動数から算出することができます。太陽の光は振動する原子から出ていますから、その光の振動数を測定することによって、原子の振動の周期が計算できます。
 それを地球上の場合と比較してやると、太陽の原子のほうが振動数が少ない。つまり、ゆっくり振動していることがわかります。太陽では、時間そのものが“遅れている”のです。
 池田 このほかに、「原子時計」を使った実験もありますね。
 ログノフ これは信じがたいほど正確な時計ですが、これで計ると、標高二〇〇〇―三〇〇〇メートルの高地では、平地よりも時間が速く進むことが観測できます。これは、地球の中心から遠ざかるほど重力の影響が少なくなり、時空の歪みが減るからです。
 ―― 「エンパイア・ステート・ビルの一階ではたらくタイピストは、最上階ではたらく彼女のふたごの姉よりも、年のとり方が遅くなる」(マーティン・ガードナー『相対性理論が驚異的によくわかる』金子務訳、白揚社)と、ロシア生まれの物理学者ガモフは述べています。(笑い)
 ログノフ ですから、この宇宙で起きるすべての事象は、空間と時間の相関する「四次元の時空世界」で起きる出来事だということです。
 池田 時間と空間は相対的であり、互いに密接な関係にあるとするのが、アインシュタインが発見したこの宇宙の法則ですね。
 ログノフ ニュートンに代表される古典物理学では、何ものにも関係なく存在する空間、一様に直線的に流れる時間を前提とします。絶対空間、絶対時間とは、いわば外側の枠組みであり、変わらないものとされていました。
 ―― それが覆されたわけですね。
 ログノフ アインシュタインの方程式では、物質とエネルギーのあり方は、時間と空間のあり方とも関連している。
 つまり、以前は独立した枠組みと考えられた空間や時間の歪みが、物質やエネルギーによって決まってくることを意味しています。
 池田 そうですか。これは仏法の“縁起”の考え方とも、通底しているように思われます。時間も空間も、また存在そのものが相互に関連し合いながら、全宇宙が活動するなかで、種々の相を織りなしている。あらゆる事象は相即性と連関性をもちつつ展開することを、仏法の世界観は洞察しています。
 ―― 時間の流れ方がさまざまに違ってくるのは、物理学だけでなく、人間の世界もそうですね。
 ログノフ ロシアには、「語らいは道中を短くし、歌は仕事を短くす」という諺があります。
 池田 “心理的時間のパラドックス(逆説)”というのもあります。人々のために働いたり、目標に向かって懸命に努力しているときには、時間は飛ぶように過ぎ去っていく。しかし、後から振り返ってみると、きわめて長くまた充実して感じられるという“パラドックス”です。
 ログノフ たしかに創造的な仕事をしているときには、豊かさがあります。
 池田 生命の充実感、豊かさこそが、価値ある人生をつくる。『倶舎論』などのアビダルマ仏教の論書では、この“生命時間”を「アドヴァン」といい、時計で計れる通常の時間の「カーラ」と区別しています。
 さらに、仏法では「極楽百年の修行は穢土えどの一日の功徳に及ばず」と、実践のあり方を説いています。真に豊かな“時”とは、何の悩みも障害もないところにあるのではない。私たちが生きる、悲喜こもごもの現実の中にこそある。波乱に満ちたこの社会においては、たとえ一日であっても、生命に計り知れない充実感を得、理想的な環境のもとでの百年の歳月にも匹敵する、“生命の時間”が刻まれる。
 ログノフ “時”といえば、二十世紀はまさに戦争と激動の世紀でした。人類は苦しみの長い“時”を送ってきました。
 池田 博士は第二次大戦のとき、どこで何をされていましたか。
 ログノフ これは以前、お話ししたことがあるかもしれませんが、私の青年期は戦争の時代でした。私が初等科を終えたころ、戦争の炎が燃えさかっておりました。それは破壊的で、非人間的なものでした。
 池田 人類初の原爆被爆国となった日本も、まさに“地獄の苦しみ”としか言いようのない長い“時”を経験しました。二十世紀は、あまりに大きな犠牲のうえに、多くの無意味な“時”を費やしてしまった。二十一世紀のために、平和の道だけは絶対に残さねばなりません。

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