Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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マハティール マレーシア首相 アジア・ルネサンスへの挑戦

随筆 世界交友録Ⅱ(後半)(池田大作全集第123巻)

前後
4  「日本はもう一度、開国を」
 同様の不信感は、“日本に学べ”と送りこまれた留学生の声にも見られた。
 「日本で嫌いなのは、人種差別。アジア人をバカにする人が、アメリカ人には別人のように愛想よくなる」
 「日本では後輩は先輩に盲従しなければならない。こんな上下関係は、マレー人の間にはない」
 「日本の若者は、アジアの文化から学ぼうとしない」
 「日本の若者は、かわいそうだ。上の世代から何もかも与えられて、そのためにどれほどの苦労があったかを知ろうとしない」
 「日本は、もう一度、開国すべきだ」。こういう声を私は憂えていた。
 また偏った歴史観から、日本軍のマレーシア人虐殺の史実も十分には知られていない。女性も老人も、いたいけな幼児さえ容赦なく殺された。全滅させられた村もあるという。
 そもそも、マレーシアへの上陸は真珠湾攻撃より一時間五十分も早い。その意味では、太平洋戦争はマレーシアで始まったのである。そのことすら知られていないのだ。
 何とか、橋を架けなければいけない。口先ではなく、行動で。
 わが恩師戸田先生(第二代会長)は言われていた。「一番むずかしいところから始めよ。そうすれば、あとは、やさしい」
 人間関係でも、組織の改革でも、そうであろう。この言葉どおり、私は共産圏と文化交流の道を開いた。そして、深い歴史の傷をもつアジア諸国にも、平和の道を開きたかった。
5  七色の文化の虹
 マレーシアは多民族・多文化の国。「アリさん、陳さん、シャンさんがつくる社会」と呼ぶ人もいる。それぞれ、マレー人、中国人、インド人の代表的な名前である。宗教も違う。伝統も違う。
 私は、国の舵取りのむずかしさを思いつつ、「複雑な社会を、どう調和させ、すべてを生かしながら、発展の方向へとリードしていけるか、その『カギ』は何でしょうか」と首相にたずねた。
 首相は言われた。
 「多様な要素を合計し、統合した場合には、『文化』こそが、その国の在り方を規定している最も重要な存在でしょう。ゆえに、その社会を支える文化への理解が不可欠です」
 マレーシアと日本の親善の合同音楽会が行われたのは、その晩であった。
 マハティール首相も四人の閣僚とともに出席し、日本の「菊の会」と「マレーシア国立民族舞踊団」の熱演に喝采を送っておられた。
 徳島の「阿波踊り」が登場したときだ。腰を深く落とした男性と、編み笠に着物姿のスラリとした女性たち。陽気でユーモラスな舞に、和やかな空気があふれた。
 踊りが終わり、満場の拍手のなか、女性が編み笠をはずすと、その瞬間、場内がどよめきに揺れた。日本の女性とばかり思っていたのに、多くのマレーシア女性が入っていたからである。
 反対に、マレーシアの踊りに、日本のダンサーが溶けこんだ演目もあった。
 それらは、ささやかではあったが、七色の多彩な虹につつまれた「アジア・ルネサンス」の未来が、ほのかに見えた一瞬であった。

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