Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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「たたき上げ」の英国の宰相 メージャー首相

随筆 世界交友録Ⅰ Ⅱ(前半)(池田大作全集第122巻)

前後
5  自分で自分の力を証明
 メージャー少年は決意した。「自分で自分の力を証明するしかない」
 通信教育で勉強を始めた。朝五時に起きた。昼は働いた。夜は保守党の党員として活動した。寝るのは、いつも真夜中だった。
 十九歳のとき、父が死んだ。波澗万丈の人生を生きた父だった。その数奇な体験をいつも話してくれた父だった。父は、どんな地位の人にも、どんな権威の人にも、ひるまなかった。そのかわり、どんな貧しい人にも親切だった。
 母もそうだつた。だから家には、いつも、いろんな人が出入りしていた。泊まるところがない人には、泊まらせてあげた。
 人生の道が開けてきたのは、父の死後である。銀行員となり、死にもの狂いの努力で、実力を証明し、出世していった。その姿を、どんなにか、お父さんに見せたかったことだろうか。
 しかし、派遣されたナイジェリアで、交通事故のため、片足を失くしかける大ケガをしてしまった。一年間の療養生活。それでも、くじけない。
 「『君にはできない』と言い渡されることほど、私の決心を強めるものはありません」
 銀行員を続けながら、地域の区議となり、やがて下院議員に三度目の挑戦で当選した。だれもが、この青年の「黄金の心」に魅せられたという。
 いわば、苦労が、″心の磨き粉″になっていた。それはつねに「学ぼう」という志を失なかったからかもしれない。
6  「人生という大学」で学んだ
 首相は言う。「政治家として大事なのはコモンセンス(良識)です。私には高い学歴はありません。しかし『人生という大学』で学んだコモンセンスがあります」
 コモンセンスとは──貧しき人のことを忘れない人間性ではないだろうか。
 社会で一番大切なのは民衆である。政治も経済も宗教も、全部、民衆のためにある。民衆を幸福にする手段である。
 その目的と手段を転倒するところに「堕落」が始まる。
 「貴族だから偉いのか! 議員だから偉いのか! 大学を出ているから偉いのか!」
 メージャー首相は、人を見下す人間と戦ってきた。そして勝った。
 その勝利とは、首相になったことではない。自分だけは絶対に庶民を見下す人間にはならないという誓いを実行したことである。
 「最近感銘した本」を、私がうかがうと、読書家の首相は「何冊もありますが」と言いながら、小説『バンク・ダムのクラウザー家』(トマス・アームストロング著)を挙げられた。
 十九世紀のヨークシャー地方、綿工場で働く一家の苦闘を描いた小説だという。
 いつも心は、貧しき人のもとにあるようだつた。
 (一九九六年十二月八日 「聖教新聞」掲載)

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