Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

英国の行動するプリンセス アン王女

随筆 世界交友録Ⅰ Ⅱ(前半)(池田大作全集第122巻)

前後
5  ボランティアの心
 私は申し上げた。
 「トップが動く。それでこそ現実は動き出します。号令をかけて、人にやらせるだけの指導者が多いから、世界は行き詰まっているのです。その意味で、私は王女の率先の闘争に敬意を表します。
 また貴国イギリスに息づくボランティアの崇高な精神は、日本人も模範としなければなりません」
 日本では、「いい人」とは、極論すれば、善いことも悪いこともしない人のことかもしれない。
 しかし、善いことをすれば必ず何らかの抵抗を受け、悪口を言われる。それを恐れず、敢然と「善」をなしてこそ、真の「いい人」のはずである。
 「人間の心は、いくら立派に作られていても、立派な行為となって現われなければ意味がない」(『尺には尺を』、前掲『シェイクスピアの言葉』所収)
 利害とは無縁のボランティアの行動がなければ、国際的に信用もされないであろう。第一、人生が、こせこせと小さく固まり、生き生きとしない。
 「人々のために自分は何をできるか」を自問しながら生きていく。そういう人間の基本を社会に広げることが、日本の将来にとって根本の大事ではないだろうか。
 アン王女が私に教えてくださった。
 「母親を教育することだ。そうすれば、子どもを教育したことになる」──児童救済基金の創立者の言葉だという。
 私は、私どもSGI(創価学会インタナショナル)の″母たち″が世界中で、地域のため、人類のために、ボランティアで行動していることを告げた。
 そして、ご自身も母である王女に、私の詩にメロディーをつけた「母」の曲のオルゴールを贈ったのである。
 教育に関して、王女は創価大学にも関心を寄せておられた。創大と創価女子短大への訪問をお願いすると、機会があればぜひ、との笑顔であった。
6  視野を広げる教育
 創価大学が海外交流に力を入れていることについて、こう言われた。
 「大学教育では、とくに学生が『視野を広げる』ことに重大な意義があります。その意味で、学生が国外に出かけ、見聞を広めることは、とても有意義なことだと思います」
 そのとおりである。
 大学を出ても、人格と一体の″生きた知識″がなければ、これからの国際的な実力社会、人道社会では役に立たない。形式の学歴社会は、すでに時代に合わなくなっている。
 しかし王女ご自身も、ロンドン大学の総長就任のさいには、″自分が大学に行ってないくせに″とマスコミが批判することを覚悟しなければならなかったという。
 王女は強い人である。「決断の人」である。感傷もない。逃避もない。
 王女の信条は、こうである。
 「あなたがベストを尽くしたならば、結果はどうあれ、それは失敗ではないのです。失敗から人は学ぶのですから」
 失敗とはむしろ、何も挑戦しないことだというのである。
 お会いして、はや四十分が過ぎていた。おいとまを告げると、王女は、わざわざエレベーターまで見送ってくださった。
 宮殿を出ると、五月の風が公園の花の香を運んできた。香しい空気を私は胸いっぱいに吸い込んだ。
 英国の伝統は健在なり。
 王女の毅然たる存在が、イギリスのため、世界のために、うれしかった。
 空を仰いで、シェークスピアの人間学を私は想起した。
 「王冠はわたしの心の中にある、頭の上にあるのではない。ダイヤモンドやインドの宝石で飾ってもなければ、目に見えるものでもない。わたしの王冠は『満足』という。との冠を持てる王はめったにいるものではない」(『へンリー六世 第三部』、前掲『シェイクスピアの言葉』所収)
 アン王女は、この、まれなる王冠をもてる女性であった。
 (一九九六年十月六日 「聖教新聞」掲載)

1
5