Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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フランスの透徹した文人 アンドレ・マルロ一氏

随筆 世界交友録Ⅰ Ⅱ(前半)(池田大作全集第122巻)

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3  月光を浴びて立つ人
 ナチスからルーブルの至宝を守った美術史家ルネ・ユイグ氏とも私は対談集を編んだ。氏はマルロー氏と、レジスタンス以来の友人である。占領下のあるとき、両氏は夜道を車で走った。月が皓々と冴え渡っていた。「歩こう」。突然、マルロー氏が車を停めた。
 いつナチスに見つかるかも分からない。ユイグ氏は気が気でなかったが、悠然と歩むマルロー氏に続いた。ふとマルロー氏が、深いもの思いにふける面持ちで言った。「文明の中心は、かつてエーゲ海から地中海に移った。さらに地中海から大西洋に移ってきた。次は、きっと大西洋から太平洋に移っていくだろう」
 明日をも知れぬ戦時下にあって、はるかなる未来を展望するスケールの大きさにユイグ氏は驚いたという。「つねに大局的なものの見方のできる偉大な人物でした」
4  お宅を訪問した翌年の秋、マルロー氏の訃報が届いた。私には、氏が今も満天の星座を仰ぎ、あの長身に月光を浴びて立ち、声なき問いを発し続ける姿が浮かんでならない。
 「この永遠を前に、人間はそも何であろうか?」「人生が『ばかばかしく』ないために、現代人は人生にどんな『永遠の価値』をあたえられるのか?」「文明は『何のため』に? そして『どこ』へ?」と。
 今、社会の蘇生に必要なのは、安易な既成の解答ではない。全生命をかけた「大いなる問い」であり、「大いなる問い」を生き抜く求道の真摯さではないだろうか。
 そこにこそ、走り続けた人間探究者マルロー氏の不滅の遺産があると私は思う。
 (一九九四年五月一日 「週刊読売」掲載)

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