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イタリア・パレルモ大学での記念講演 文明の十字路から人間文化の興隆を

2007.3.27 提言・講演・論文 (池田大作全集第150巻)

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11  とともに私が、今後の教育の重要な柱となると考えるのは、コスモポリタンの資質でもある「多様な文化を尊び、学ぶ、開かれた心を養う教育」であります。
 本年1月、私は、中国文明研究の第一人者で、ハーバード大学教授のドゥ・ウェイミン博士と対談集(『対話の文明──平和の希望哲学を語る』第三文明社刊)を発刊しました。
 国連の「文明間の対話年」に関する賢人会議のメンバーとしても活躍された博士は、こう警鐘を鳴らしておられた。
 「学ぶことをやめ、他人に教えるのだとの高慢な態度をもつ文明や人間は、必ず衰退していくものです」
 そして、「異なった生活様式との出合いによって、『聞く』技術や思いやりの倫理観、自己発見の感覚を磨いていく」ことが重要であると訴えておられました。
 この「他者から学ぶ」という謙虚な姿勢こそ、世界に「平和の文化」を根付かせゆく土壌を耕す力であると、私は思っております。
 第3の千年が目指すべき方向を論じつつ、「過去二千年のシンボルは(矢)であった」「一方向性をもって突き進んだ」と洞察したのは、イタリアの思想家ウンベルト・エーコ氏であります。
 そして、エーコ氏は、「来るべき三千年紀のシンボルは(星座)であらねばならない。それは多文化社会の尊重ということである」と述べております(服部英二「3000年紀を見る『世界人』が訴えるもの」、「Ronza」97年5月号)。
 「星座」とは、まさに言い得て妙であります。
 個々の星が、それぞれ光り輝きながら、星座という一つの形として美を織りなしていく。そして、互いの美しさを損なうことなく、むしろ多様な相を織りなして天空を豊かに飾っていきます。
 この世界観は仏法が説く「縁起観」にも、まさに通じるものであります。
 仏典には、「帝釈天の網」という譬えがあります。大自然の力を象徴する帝釈天の宮殿には、縦横に走る壮大な網がかかり、多彩な輝きを放つ数多くの宝石が、取り付けられております。
 そこでは、どの宝石が中心というのではない。それぞれが全体の中心です。そして、一つ一つの宝石が、互いを映しだし、輝きを増しながら、調和に満ちた「荘厳な世界」を創り出している。それが、この世界の実相であるというのです。
 その一つ一つの宝石を、それぞれの地域、民族の"文化の象徴"とすれば、宝石の放つ光は、それぞれの文化の独自性を示していると言えるでしょう。
 そして、すべての宝石が、互いに映し合い、新たな光彩を放ち、大いなる価値を創造しながら、荘厳に輝きわたる「地球文明」を創りだしていくのであります。
 "多様性"を尊重し、差異を讃え合い、学び合うなかで、それぞれの独自性とともに、人類共通の"普遍性"を見出していく──そのような「コミュニケーション」こそが、理想とすべき平和共存の「人間文化」「人類文明」をつくり上げていくのではないでしょうか。
 この"多様性を重んじる心"を育むことから、「世界市民教育」の第一歩が始まると、私は確信してやみません。
12  わが故郷は世界
 シチリアの詩人アブ・アル・アラブは、こう高らかに謳い上げました。
  「私は大地から生まれたもの、
   だから私はどこにいても居心地が良い
   何しろすべての人間が私の兄弟だし
   世界が私の国なのだから」
 (ジュゼッぺ・クアトリーリオ著、真野義人・箕浦万里子訳『シチリアの千年──アラブからブルボンまで』新評論)
 まさに世界をわが故郷と呼び、すべての人々をわが兄弟姉妹と心から呼べる広々とした精神こそ、私たちが未来の世代に責任をもって育んでいくべき、世界市民の「心」ではないでしょうか。
 バレルモの伝統的な街並みの中心には、主要な道路が交差する「クアットロ・カンティ(四つ辻)」があります。この十字路が、いみじくも象徴するように、パレルモは、多様な民族が賑やかに行き交う、壮大な歴史の舞台でありました。
 そして貴大学は、その「文明の十字路」にあって、多彩な人間文化を創造し、世界市民を輩出する「英知の殿堂」として、人類の発展に偉大な足跡を刻んでこられました。
 平和と共生の「地球文明」の創造が待望される今日、世界における貴大学の存在は、いやまして燦然たる輝きを放っております。
 きょうより私は、その誉れある大学の一員として、心より尊敬申し上げるシルヴェストリ総長はじめ、諸先生方とともに、世界にさらなる"対話の輪"を広げ、"人間教育の興隆"に努めていくことを、ここに固くお誓い申し上げます。
 最後に「シチリアのガンジー」と讃えられた、偉大なるダニ一ロ・ドルチの言葉を、貴大学の若き英才の皆様方に贈り、私の記念の講演を結ばせていただきます。
 「"平和"とは、"静寂"ではなく、"戦い"を意味する言葉である。明快なる視野を持ち、すべてを育み、向上させ、問題を解決しゆく、労苦を惜しまぬ生き方のことである」
 グラッツィエ・ミッレ!(大変にありがとうございました!)
13  主な参考文献
 アントニー・エヴァリッ卜者、高田康成訳『キケロ──もうひとつのローマ史』白水社木村毅著『ラグーザお玉』千倉書房
 チャールズ・H・ハスキンズ著、別宮貞徳・朝倉文市訳『十二世紀ルネサンス』みすず書房
 伊東俊太郎著『十二世紀ルネサンス』講談社学術文庫高山博書『中世シチリア王国』講談社現代新書
 同『中世地中海世界とシチリア王国』東京大学出版会
 ジャック・ヴェルジェ著、野口洋二訳『入門十二世紀ルネサンス』創文社
 小森谷慶子著『シチリア歴史紀行』白水社
 陣内秀信著『シチリア──〈南〉の再発見』淡交社
 吉村忠典著『古代ローマ帝国』岩波新書
 NHK「文明の道」プロジェクト編『NHKスペシャル文明の道4イスラムと十字軍』日本放送出版協会
 竹山博英著『シチリアの春──世紀末の文化と社会』朝日新聞社
 NHK「フッダ」プロジェクト編『ブッダ──大いなる旅路3救いの思想・大乗仏教』日本放送出版協会
 中村元著『原始仏教から大乗仏教へ 決定版中村元選集第20巻 大乗仏教1』春秋社

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