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第30回「SGIの日」記念提言 「世紀の空へ人間主義の旗」

2005.1.26 提言・講演・論文 (池田大作全集第150巻)

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28  次代担う世代に軍縮教育を推進
 三つ目は、軍縮・不拡散教育の推進です。
 近年、核拡散の動きが広がる一方で、核軍縮への取り組みが遅々として進まない状況を打開するためには、市民レベルの意識啓発、とくに若い世代の教育に力を注ぐ必要があるとの問題意識が高まってきました。
 こうした中、2001年にアナン事務総長から任命を受けた10カ国の専門家からなるグループが結成され、その研究成果をまとめた報告書「軍縮・不拡散教育に関する国連の研究」が、翌2002年の国連総会で採択されました。
 そもそも軍縮教育の重要性が初めて強調されたのは、1978年に行われた「第1回国連軍縮特別総会」の場においてであります。私もこの特別総会に寄せた提言で、「戦争の残虐性、核兵器の恐ろしさを、より広範な民衆に啓蒙し、その実態を知らしめていく」活動の重要性を訴え、民衆レベルでの軍縮教育の推進を呼びかけました。
 以来、国連では82年から10年間にわたり、「世界軍縮キャンペーン」が進められましたが、SGIではその開始に先駆ける形で、国連広報局、広島、長崎両市と協力し、同年6月にニューヨークの国連本部で「核兵器――現代世界の脅威」展を開催しました。
 同展はその後、核保有国をはじめイデオロギーや社会体制の異なる国々を巡回し、訪れた市民はのべ120万人を数えました。冷戦後も、「戦争と平和」展や、内容を刷新した「核兵器――人類への脅威」展等の巡回を行い、平和を求める民衆の心を一つに結びながら、世界不戦への潮流を高めてきたのです。
 また、98年からは平和と人道に貢献したポーリング博士の思想と生涯を紹介する「ライナス・ポーリングと20世紀」展を、アメリカや日本や欧州各地で開催し、100万人以上が訪れました。
 この展示についても、「国連総会が2000年に決議した『軍縮教育』の理念に一致した素晴らしい催し」(ダナパラ国連事務次長、当時)など関係者からも高い評価が寄せられ、昨年、国連総会に提出された軍縮・不拡散教育に関する事務総長報告の中で同展への言及がされています。
 21世紀に入り、テロをはじめ新たな脅威が台頭し、不安定さを増している今こそ、国際社会が一丸となって軍縮・不拡散教育を推進し、時代を平和の方向へと向けていく挑戦が求められます。
 アナン事務総長も先述の報告書の序文で、「核兵器による破滅的状況という常に存在する恐怖を知らないまま、全く新しい世代の人間が成人に達しつつあることを考えるのは、私の世代の人間にとっては衝撃的である」と警告しています。
 若い世代の間で軍縮問題への無知や無関心がこのまま広がってしまえば、いくら法制度を整えたところで、平和への流れを確たるものにすることはできません。その意味でも私は、とくに学校教育の中で、軍縮・不拡散教育を積極的に取り入れていく努力が必要ではないかと思います。
 具体的には、報告書で推奨しているような、実際の問題に沿った形でシミュレーションを行い、批判力や考察力を高める「参加学習」を中学や高校で実施したり、大学で「平和学」をカリキュラムに積極的に導入するなどの取り組みを広げていくべきでしょう。
 また学校教育とあわせて、社会のあらゆる分野で意識啓発を進めていくことが肝要であり、核廃絶を遺訓の第一とした戸田城聖第2代会長の「原水爆禁止宣言」を胸に、平和運動を進めてきたSGIとしても、今後とも軍縮・不拡散教育の推進であります。
29  「SGl憲章」を一人一人が体現
 最後に、発足30周年を迎えたSGIの基本精神について再確認しておきたい。
 1975年1月に51カ国・地域で発足して以来、SGIの「人間主義」の連帯は、今や190力国・地域へと大きく広がりました。それは、メンバー一人ひとりが信仰を根本に、各国でよき市民として行動し、社会に「希望」と「信頼」の輪を広げる中で、一歩一歩築き上げてきたものにほかなりません。
 その根本精神は、10年前に制定した「SGI憲章」の以下の内容を含めた10項目にも結実しています。
 「SGIは生命尊厳の仏法を基調に、全人類の平和・文化・教育に貢献する」
 「SGIは真理の探求と学問の発展のため、またあらゆる人々が人格を陶冶し、豊かで幸福な人生を享受するための教育の興隆に貢献する」
 「SGIはそれぞれの文化の多様性を尊重し、文化交流を推進し、相互理解と協調の国際社会の構築を目指す」
 今後も、この「SGI憲章」を一人ひとりが体現し、今いる場所で対話の波を広げながら、平和と共生の地球社会の建設へ歩んでいきたい。
 SGIの発足30周年である本年は、創価学会創立75周年の佳節でもあります。
 「創価教育学会」を母体とし、牧口初代会長と戸田第2代会長が教育者であったことが象徴するように、学会は創立以来、「教育」を通じた平和な社会の構築に取り組んできました。
 その精神は、今年からスタートする国連の「人権教育」と「持続可能な開発のための教育」の二つの国際的枠組みの設置を呼びかけるとともに、「軍縮・不拡散教育」の活動を積極的に推進してきたSGIにも、厳然と脈打っております。
 明確なる目的観に立って、人間教育の善の結合を世界に広げよ!そこに、人類の永遠の勝利の道がある――これが牧口、戸田両会長の遺訓でありました。
 私どもSGIは、この先師の深き精神を胸に刻みつつ、目覚めた民衆による「平和」と「人間主義」の連帯を、どこまでも広げていきたいと思います。
30  語句の解説
 注1 維摩詰
 釈尊在世の時代、中インドの毘耶離びやり城に住んでいたとされる在家仏教者の代表的人物。大乗仏教の奥義に通じ、雄弁で巧みな方便を用いて、仏教流布に貢献したといわれる。「維摩経」には、病気見舞いのために維摩詰のもとを訪れた文殊師利菩薩との対話の場面などが描かれている。
 注2 順縁と逆縁
 順縁とは、教えを聞いて従順に信じ、仏道に入ること。また逆縁は、謗法などの仏法に敵対する悪事がかえって仏道への縁となること。仏法では「毒鼓の縁」といって、逆縁であっても、やがては煩悩を断じて得道することができるとして、その縁をプラスの関係へと転じていくことができると説く。
 注3 カッサンドラ
 ギリシャ神話に出てくるトロイの王女。太陽神アポロンから未来を予言する力を授けられながらも、その求愛を拒んだために、「誰もその予言を信じない」という呪いをかけられた。その結果、ギリシャ軍による侵攻を警告しても誰も耳を貸さず、トロイは陥落。自らも捕虜にされ、ギリシャで殺された。
 注4 ミレニアム開発目標
 2000年に採択された「国連ミレニアム宣言」と1990年代に開催された諸会議で採択された開発目標を統合し、共通の枠組みとしてまとめたもの。2015年までに「l日1ドル未満で暮らす人口の割合を半減させる」「飢餓に苦しむ人口の割合を半減させる」「初等教育を完全普及する」などの項目が掲げられている。
 注5 EU憲法
 経済から外交・安全保障、防衛、司法政策まで各国の連携と協調の強化を謳ったもので、昨年6月のEU首脳会議で採択された。常任の欧州理事会議長とEU外相の新設なども盛り込まれている。発効のためには、加盟国すべての批准が必要で、これまでリトアニアとハンガリーが批准をすませている。
 注6 カットオフ条約
 核保有国とNPT非締約国の核能力の凍結を目的とし、核爆発装置の研究・製造・使用のための高濃縮ウラン及びプルトニウム等の生産禁止等を義務とする条約。l995年、ジュネーブ軍縮会議で特別委員会の設置が決定されたものの、議論が紛糾。各国の対立のために、いまだ実質的な交渉開始にいたっていない。

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